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【茄子は思考する】
我々はクラエス邸で育てられている茄子である。
移住した当初、我々は大いに不満であった。
カタリナ・クラエスなる貴族のお嬢様の一時の気まぐれで振り回されるというのは憤懣やるかたない。
事実、日当たりの悪い場所にもお構いなしに植えられることに抗議の意志を示し、自ら枯れていった同胞もいたほどである。
このまま我々は飽きられ、虫に食われ、大地に腐り落ちる他ないのかと嘆いていた所、転機が訪れた。
カタリナが友人に助けを求めたのである。
赤褐色の髪と同色の大きな瞳をもつメアリ・ハントなる少女はたちどころに我々に太陽の光が足りないことを見抜き日の当たる大地へと植え替えたのである。
我々は大いに驚き、大いに喜び、大いに反省した。
我々の苦境をすぐさま見抜く眼力に、再び日の目が見れるよう移住させてくれたことに、すぐに飽きると思い込んでいた我々の思い込みに。
それ以来、我々はこのクラエス邸の食卓をにぎわせているのである。よくよく考えれば領地が広いので連作障害の心配も無いとてもよい場所であった。
キュウリなどはメアリ・ハントに心酔しカタリナとメアリが結婚すればいつまでもここにいられるのになどと言っている。
キュウリの無知蒙昧さにはいつもめまいがさせられる。人間は雄と雌がつがいにならなければ子をなせないことも知らんとは。カタリナがつがいになるとすればたまに我々を世話するジオルドなる少年であろう。
大根は助平にもカタリナとメアリの間に挟まりたいなどとのたまっている。
愚かな助平大根には理解できないかもしれないが少女達の白肌には我々のような真っ黒で極太な茄子こそが似合うのだ。
おまけにツルツルしているので隠された花弁も傷つけない。
ある日キノコ達から噂を聞いた。我々はキノコが嫌いである。奴らはカタリナを誘惑し口の中に入り込む。そしてあろうことかカタリナのお腹を壊すという許しがたい振る舞いをするのだ。
そのようなわけで最初は無視をしていたが話の内容がやがて少女が屋敷を去る段に入ると無視も出来なくなった。
曰く、学園とやらに移るため我々の世話はできなくなるらしいのだ。
我々の世話は老いた庭師が引き継いでくれるので、我々の繁栄に何も心配はいらないが心の寂しさまでは埋められない。
ああ、こんなことになるのならば人間を好きになどならなければよかった――――――

我々は魔法学園で育てられている茄子である。
カタリナとの別れを嘆きながら暮らしていた我々であるが、ある日庭師に掘り起こされ馬車という粗にして野なる乗り物に大根やキュウリなどと共に載せられた。
気が付くと新たなる大地に植えられており、辺りを見回すと麗しのカタリナが我々のための畑を耕している所だった。
我々は大いに驚き、大いに喜び、大いに反省した。
置き去りにしなかったことを、連れてきてくれたことを、我々を見捨てると思っていたことを。
こちらに来てから我々の世話をするカタリナの友人が増えた。
キュウリなどは相も変わらずマリア・キャンベルに心酔しカタリナとマリア・キャンベルが結婚すればいつまでもここにいられるのになどと言っている。
キュウリの無知蒙昧さにはいつもめまいがさせられる。
ここは一時の止まり木である。
彼女たちの愛の巣こそ我々のアヴァロンなのだ。きょうはやけにひかりがまぶしい。
大根は助平にもカタリナとマリアの間に挟まりたいなどとのたまっている。
愚かな助平大根には理解できないかもしれないが少女達の白肌には我々のような真っ黒で極太な茄子こそが似合うのだ。おまけにツルツルしているので隠された花弁も傷つけ―――なんだ?ひかりが―――

あっちゃんワンポイントアドバイス
冷凍の焼きなすを買ったんだけど袋を開けた瞬間に何とも言えない臭いがしたわ。

【マフィンは思考する】
俺の名はマフィン。しがない焼き菓子さ。
今、俺はなぜかシュー・クリームになりかけている。より具体的に言うなら人間のお嬢ちゃんに靴で踏まれそうになっている。
俺は今朝マリアちゃんに作られた。
マリアちゃんは昔はよく俺を焼いて食ってくれたがある日を境にお菓子作りをやめちまった。
クッキーのジジイが食中毒でも起こしたんじゃねえかと疑ったがどうやら違うようだった。
それから随分寂しい思いをしていたが、ここ最近マリアちゃんがまた少しずつお菓子を作るようになった。
そして今日、マリアちゃんはカタリナっていうお嬢ちゃんのためにと沢山の俺を焼いた。
女の子の笑顔のためならってことで俺も一丁気合いを入れていい焼き色をつけながら膨らんだ。
自慢じゃあないがここ最近で一番の焼き上がりさ。
見てくれは可愛くないかもしれねえが味はお高くとまってる店売りにだって負けやしねえ。
それが今じゃあ靴と地面に挟まれる寸前だ。
俺を足を上げているお嬢ちゃんに、
『お嬢ちゃんよ、俺はクツじゃなくてクチで食った方がずっと、旨いぜ…』
クールに囁いてみたがいかんせん口が無いせいか大人の魅力ってヤツが伝わらないようだ。
このままアリ共に喰われるなんてパン粉じゃねえが、女の子1人笑わせられねえ情けない焼き菓子にはふさわしい末路かもしれねえ…
そんな覚悟を決めていたら急に持ち上げられてそのままパクつかれた。
驚いたね。俺を持ち上げて喰ったのはなんとマリアちゃんの意中の人のカタリナちゃんだった。
そのままカタリナちゃんは俺たちを全部拾って食っちまった。
貴族のお嬢ちゃんの割になかなか面白い女の子じゃないか。
俺はカタリナちゃんに、
『ありがとうよ、マリアちゃんを泣かさないでくれて。ところでいい焼き窯があるんだがこんど遊びに行かねえか?』
ダンディにデートのお誘いをかけたが聞こえないふりをされちまった。
まあ、ハードボイルドだってフラれることぐらいあるさ。
それから俺は毎日のように焼かれている。マリアちゃんの笑顔も日に日に輝きを増しているようで嬉しいぜ。
今日も俺はカタリナちゃんに食われために焼かれている。あのお嬢ちゃん、いつも腹を空かせているからな。
シェリー酒をどうやってデートに誘うか悩みつつ今日も俺は焼き窯に入れられた。

あっちゃんワンポイントアドバイス
パサパサ系のお菓子に飲むヨーグルトを合わせるの超好き。

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