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鬼滅/

初めて己の性癖を自覚したのは七つの時だった。
竹刀を握り、兄上の指南役を叩きのめした。
それ自体にはなんの感慨もなかった。
だが、振り返って目に入った兄上の表情。
信じられないものを見た、という顔だった。
それまで、兄上にとって私は憐れむべき弱者、不出来な弟であった。
兄上は私を見ておらず、弟という立場にかまってやっているのだと、私には感じられた。
それでも、尊敬する兄上に触れられるだけで、私は満足であった。
しかしその日を境に、私の生活は一変した。
たとえ私の嫌いな剣術の話であろうと、兄上が私に必死に話しかけてくる。
兄上がやっと私自身を見てくれているのだと思うと、嬉しくなった。

やがて兄上と話す時、不思議と下腹部が熱を持った。
そのうちに、話していないときでも、兄上のことを考えるとその疼きを感じるようになった。
母上にそのことを相談すると、それは男として成長し始めた証拠だとおっしゃられた。
そのうちに何に興奮して、どう鎮めれば良いのかわかるものだと。
言うまでもなく、兄上に興奮しているのは明らかであった。
その日から、兄上と話す時間がより恍惚としたものとなった。
兄上にせがまれるまま剣の話をする横で、兄上を眺め、その手に触れ、熱を感じた。
そのたびに、私の一物も熱を帯び、大きくなった。

仮に兄上にも私のように見え始めたらどうなるだろうか。
私を軽蔑するだろうか、罵るだろうか。
一人の時はそんなことを夢想し、本能で一物を擦り、精を吐き出した。
やがて母上が身罷られ、私は家を出た。
家に残るという選択肢もあったが、どっちにしろ兄上と一緒にはいられない。
私が残り兄上が出家した場合、兄上はもしかしたら私のことをすっかり忘れて仏に帰依してしまうかもしれない。
だが、私が出ていけば、兄上は刀を振るうたび私のことを思い出すに違いない。
時機を見計らい、兄上の元へと戻ろう。
それまでは、このいただいた笛に兄上の残り香を感じながら己を慰めようと。

鬼に襲われた兄上を、手勢が全員死んでから救い出した。
成長した兄上は美しく、だがしかし私のように世界を見ることは出来ないままのようだった。
久方ぶりに兄上の手を取った瞬間に絶頂した私には気が付かなかったのだから。
その後に、家を捨て、妻子を棄て、兄上は私のもとへと戻ってきた。
今や兄上の中で私が何よりも大きな場所を占めている証拠であった。
乞われれば惜しみなく私は教えた。兄上に何より大きな悦楽を頂いているからだ。

つまらない鍛錬を通してでも、兄上が私に深く依存し始めているのがよくわかった。
兄上を負かすたびに、兄上の中での私が大きくなるのを感じる。
そのたびに私自身も悦楽に震えた。刀を振るいながら達したことも一度や二度ではなかった。
鬼狩りの生活は決して楽なものではないが、私は幸せだった。
私の大好きな兄上が私を中心にして暮らしているのだ。
この思いの丈を吐露したいという気持ちもあったが、到底受け入れてもらえるとは思えない。
一生胸の内に秘めたまま、兄上と共に暮らしていこう。
いつか死が二人を分かつ時まで。

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