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「へ、へぇ……。中々のモン、持ってんじゃねぇか……」
 極力平静を取り繕いながら、しかし胸に沸き立つ動揺を隠せぬ声色が、引きつった口元から漏れる。紅潮した小麦色の肌を薄明かりに照らされながら、キバナは形良くすらりと伸びた背筋を小さく震わせた。
 真っ白なシーツの上で互いの裸体を晒すこのときですら、この男は自分を敗北させるのか。……そんな予感がじわりと脳裏に浮かんできて、腹の奥に燃えさしが燻るような熱が込みあげる。
 前戯すら始まっていないうちに陥落しそうな自分を戒めるように、キバナは娼婦を思わせる妖艶な薄笑いを作りながら、目の前の男の股ぐらよりそそり立つ雄の象徴へと、そっと手を伸ばす。
「ったく、こんなにデカくしちまって。……オレさまに任せな。最高の初体験にしてやるよ、ダンデ」
「あ、……おう」


いつもいつも、威圧されるくらいに真っ直ぐこちらを見つめてきた瞳が、今は気まずそうに伏せられている。褐色の頬をはこの薄明かりの中ですら分かるほどに赤みを帯びていて、なるほど確かに童貞なのだなという印象を受けた。
 今までポケモン一筋に全力で走り続けたのだから、それも無理からぬ事なのだろう。
「顔、見せてくれよ。バトルのときのお前みたいに真っ直ぐさ……」
 カレーを煮立たせられそうなくらい熱の籠もった頬へと手を添える。湿った吐息の感触がこそばゆい。そっと、優しく、伏せられた顔をこちらへと向けさせていきながら、キバナは誘うように小さく舌舐めずりをしてみせた。
「どうしたい……?」
 手の中でビクビクと震える肉棒を弄ぶようにしながら、真っ赤に染まった耳元にささやく。乾いた唇の間から漏れるか細い喘ぎ声にほくそ笑みながら、キバナはダンデの返答を待つ。
 ……夜はまだ始まったばかりだ。ポケモンバトルでは散々敗北してきたのだから、奥手な童貞を焦らして弄ぶくらい、許されるだろう。
 悪女のように振る舞いを楽しみながら意地悪く考えるが、ダンデの返答は言葉ではなく、行動だった。
「お、わ……!?」


体が一気に傾く。柔らかなベッドの上に押し倒されると同時に、両手首を力強く掴まれるのを感じた。
 普段の紳士的な好青年然とした物腰からは想像もつかないような、乱暴な行為。もしやなにか怒らせるようなことでもしてしまったろうかと、キバナは額に冷や汗を浮かべながらダンデの顔を見上げる。
「……っ」
 力強い瞳が、真っ直ぐと自分を見つめていた。手に汗握るバトルの最中とも違う、湧き上がる衝動に突き動かされた荒々しい顔つき。
 ゾクりと、背筋に電撃が走るような感覚があった。その目で見つめられるだけで腰から力が抜ける。臀部の奥にキュンと切ない疼きが走って、もはや男を誘惑するための妖艶な笑みを浮かべていられる余裕さえ失っていた。
「全部だ。……お前の全部を、味わいたい」
 さっきまでの童貞らしい仕草が嘘のように、ダンデが低く唸るような声で口にする。唖然と口を開いたまま、キバナは上ずった息遣いを漏らしつつ頷くことしか出来なかった。
 ああ、自分はまた負けるのか。予感は確信に変わっていた。もうそれすらもが、心地よかった。


 ユウリのスマホロトムにて編集中のテキストファイルより抜粋。

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