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ひぐらし業/圭梨+沙都子

21/03/06(土)01:15:37 『知らぬが仏』1/7No.780730872そうだねx1 03:12頃消えます
「沙都子ッ!」
自分の声で目が覚めた。
周りを見回して…そこが、あの日の帰り道でも、
二人で住んでいた部屋でもないことを思い出し、ため息をついた。
…もう何度も繰り返した目覚めだ。
昭和60年。沙都子が死んで1年。
言葉にすればあまりにあっけない死は、
夢の度にそれを曖昧にしてくれる。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
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… 121/03/06(土)01:15:53 『知らぬが仏』2/7No.780730950+
あの頃の沙都子はおかしかった。
ルチーアに行こうという私の夢を敵視し、幾度となくそれを否定した。
あまつさえ、私の為だと宣った。
そしてあの日の帰り道。掴み合いの喧嘩を始めた私たちは態勢を崩し、ともに用水路に落ちた。
髪を掴む手をなかなか離さなかったせいで飲みこんでしまった淀んだ水を吐き出しながら、
沙都子に文句を言おうとした私は、沙都子が水に沈んだままなのにようやく気づいた。
頭を打ち、意識が朦朧とする中、水面を求める沙都子の上で、私がのたうっていたせいだ。
つまるところ、私が沙都子を殺したのだ。
… 221/03/06(土)01:16:10 『知らぬが仏』3/7No.780731028+
言うまでもなく、「妹」を殺された詩音とはより疎遠になった。妹の親友で仇である私とは、
一切の親交も万が一の殺害も行う訳にはいかないからだろう。
入江もまた複雑な表情をよく見せるようになった。沙都子の癇癪を宥められなかったことを、
今もまだ悔いているのだ。
レナと魅音はなるべく変わらないように接してくれていた。
そして…
「梨花ちゃん。起きたのか?」
圭一とは、同居人になった。
… 321/03/06(土)01:16:37 『知らぬが仏』4/7No.780731147+
古手家は大差ない、竜宮家はレナが申し訳なさつつも難色を示し、園崎家はエンカウント回避。
あの小屋にいることがつらくなった私は、前原家にお世話になることになった。
圭一の部屋を明け渡すという好意を固辞し、彼に宛がわれるはずだったアトリエ内の仮部屋に
居候として住むことにしたのだ。
「…沙都子のせいで居眠りもまともに出来ないのですよ」
そう軽口を叩いてみせるが、自分でも嫌になるほど弱々しい声にしかならなかった。
「そりゃ災難だったな。ご機嫌取りにお茶にでもしようぜ」
だから、明るく返してくれる声が嬉しかった。
… 421/03/06(土)01:17:00 『知らぬが仏』5/7No.780731248+
「ボクは、本当にルチーアに行ってもいいのでしょうか」
私はお茶をいただきながら、ぽつりと漏らした。
「なんだなんだ、もう試験は楽勝ってか?」
「みー…。冗談でもそんなこと言えないのですよ。ただ…」
入江はむしろ行ってくださいとまで言い、公由とお魎も後押ししてくれた。でも。
「やっぱり怒るでしょうから」
「…構わないさ。梨花ちゃんの人生は梨花ちゃんのもんだ
  怒って喚いて…それでどうこうしようとした、沙都子の方が間違ってた」
それはそうだ。頭ごなしに否定してきた沙都子に、私は今もまだ怒っている。
けれど、沙都子が死んだ…死なせたという事実は、その気持ちを曖昧にさせる。
なにより、沙都子という障害が死によって排除された道を歩んでいくことは、
彼女の死を、喜び、嘲笑うかのような気がしたのだ。
…あるいは、最初からそうだったと、認めるような気さえする。
… 521/03/06(土)01:17:22 『知らぬが仏』6/7No.780731337+
「…これは、昔どこかで聞きかじったことなんだけどさ」
浮かない表情を続ける私に、圭一は少し気恥ずかしそうに言葉を掛けた。
「…俺たちが生き続けるのは、過去の過ちを取り戻すためでもあるんだとさ」
…それは。
「…そのために生き続けるなら、別にボクは夢を叶えなくたって」
違う、と圭一は私の言葉を遮った。
「それじゃあ、沙都子の過ちを…友達を支配しようとした間違いは残ったままだ」
「……」
「俺も手伝う。俺も背負う。だから、梨花ちゃん。沙都子の分も背負って、進んでくれないか」
私を見据える圭一の目を見て…まったく、降参だ。
「それは大変なのです。落ちたら無様なのですよ」
「そんときゃあの世で笑わせとけばいいさ」
私は顔を綻ばせた。…圭一が、心地よい言葉に酔わせてくれるからだ。
… 621/03/06(土)01:17:47 『知らぬが仏』7/7No.780731431そうだねx11
ごめんなさい。どれだけ醜く、無様で、非道なことだろうとも。
…私は、あなたの居ない世界でも、生きたい。

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