2ntブログ

【茄子は思考する】
我々はクラエス邸で育てられている茄子である。
移住した当初、我々は大いに不満であった。
カタリナ・クラエスなる貴族のお嬢様の一時の気まぐれで振り回されるというのは憤懣やるかたない。
事実、日当たりの悪い場所にもお構いなしに植えられることに抗議の意志を示し、自ら枯れていった同胞もいたほどである。
このまま我々は飽きられ、虫に食われ、大地に腐り落ちる他ないのかと嘆いていた所、転機が訪れた。
カタリナが友人に助けを求めたのである。
赤褐色の髪と同色の大きな瞳をもつメアリ・ハントなる少女はたちどころに我々に太陽の光が足りないことを見抜き日の当たる大地へと植え替えたのである。
我々は大いに驚き、大いに喜び、大いに反省した。
我々の苦境をすぐさま見抜く眼力に、再び日の目が見れるよう移住させてくれたことに、すぐに飽きると思い込んでいた我々の思い込みに。
それ以来、我々はこのクラエス邸の食卓をにぎわせているのである。よくよく考えれば領地が広いので連作障害の心配も無いとてもよい場所であった。
キュウリなどはメアリ・ハントに心酔しカタリナとメアリが結婚すればいつまでもここにいられるのになどと言っている。
キュウリの無知蒙昧さにはいつもめまいがさせられる。人間は雄と雌がつがいにならなければ子をなせないことも知らんとは。カタリナがつがいになるとすればたまに我々を世話するジオルドなる少年であろう。
大根は助平にもカタリナとメアリの間に挟まりたいなどとのたまっている。
愚かな助平大根には理解できないかもしれないが少女達の白肌には我々のような真っ黒で極太な茄子こそが似合うのだ。
おまけにツルツルしているので隠された花弁も傷つけない。
ある日キノコ達から噂を聞いた。我々はキノコが嫌いである。奴らはカタリナを誘惑し口の中に入り込む。そしてあろうことかカタリナのお腹を壊すという許しがたい振る舞いをするのだ。
そのようなわけで最初は無視をしていたが話の内容がやがて少女が屋敷を去る段に入ると無視も出来なくなった。
曰く、学園とやらに移るため我々の世話はできなくなるらしいのだ。
我々の世話は老いた庭師が引き継いでくれるので、我々の繁栄に何も心配はいらないが心の寂しさまでは埋められない。
ああ、こんなことになるのならば人間を好きになどならなければよかった――――――

我々は魔法学園で育てられている茄子である。
カタリナとの別れを嘆きながら暮らしていた我々であるが、ある日庭師に掘り起こされ馬車という粗にして野なる乗り物に大根やキュウリなどと共に載せられた。
気が付くと新たなる大地に植えられており、辺りを見回すと麗しのカタリナが我々のための畑を耕している所だった。
我々は大いに驚き、大いに喜び、大いに反省した。
置き去りにしなかったことを、連れてきてくれたことを、我々を見捨てると思っていたことを。
こちらに来てから我々の世話をするカタリナの友人が増えた。
キュウリなどは相も変わらずマリア・キャンベルに心酔しカタリナとマリア・キャンベルが結婚すればいつまでもここにいられるのになどと言っている。
キュウリの無知蒙昧さにはいつもめまいがさせられる。
ここは一時の止まり木である。
彼女たちの愛の巣こそ我々のアヴァロンなのだ。きょうはやけにひかりがまぶしい。
大根は助平にもカタリナとマリアの間に挟まりたいなどとのたまっている。
愚かな助平大根には理解できないかもしれないが少女達の白肌には我々のような真っ黒で極太な茄子こそが似合うのだ。おまけにツルツルしているので隠された花弁も傷つけ―――なんだ?ひかりが―――

あっちゃんワンポイントアドバイス
冷凍の焼きなすを買ったんだけど袋を開けた瞬間に何とも言えない臭いがしたわ。

【マフィンは思考する】
俺の名はマフィン。しがない焼き菓子さ。
今、俺はなぜかシュー・クリームになりかけている。より具体的に言うなら人間のお嬢ちゃんに靴で踏まれそうになっている。
俺は今朝マリアちゃんに作られた。
マリアちゃんは昔はよく俺を焼いて食ってくれたがある日を境にお菓子作りをやめちまった。
クッキーのジジイが食中毒でも起こしたんじゃねえかと疑ったがどうやら違うようだった。
それから随分寂しい思いをしていたが、ここ最近マリアちゃんがまた少しずつお菓子を作るようになった。
そして今日、マリアちゃんはカタリナっていうお嬢ちゃんのためにと沢山の俺を焼いた。
女の子の笑顔のためならってことで俺も一丁気合いを入れていい焼き色をつけながら膨らんだ。
自慢じゃあないがここ最近で一番の焼き上がりさ。
見てくれは可愛くないかもしれねえが味はお高くとまってる店売りにだって負けやしねえ。
それが今じゃあ靴と地面に挟まれる寸前だ。
俺を足を上げているお嬢ちゃんに、
『お嬢ちゃんよ、俺はクツじゃなくてクチで食った方がずっと、旨いぜ…』
クールに囁いてみたがいかんせん口が無いせいか大人の魅力ってヤツが伝わらないようだ。
このままアリ共に喰われるなんてパン粉じゃねえが、女の子1人笑わせられねえ情けない焼き菓子にはふさわしい末路かもしれねえ…
そんな覚悟を決めていたら急に持ち上げられてそのままパクつかれた。
驚いたね。俺を持ち上げて喰ったのはなんとマリアちゃんの意中の人のカタリナちゃんだった。
そのままカタリナちゃんは俺たちを全部拾って食っちまった。
貴族のお嬢ちゃんの割になかなか面白い女の子じゃないか。
俺はカタリナちゃんに、
『ありがとうよ、マリアちゃんを泣かさないでくれて。ところでいい焼き窯があるんだがこんど遊びに行かねえか?』
ダンディにデートのお誘いをかけたが聞こえないふりをされちまった。
まあ、ハードボイルドだってフラれることぐらいあるさ。
それから俺は毎日のように焼かれている。マリアちゃんの笑顔も日に日に輝きを増しているようで嬉しいぜ。
今日も俺はカタリナちゃんに食われために焼かれている。あのお嬢ちゃん、いつも腹を空かせているからな。
シェリー酒をどうやってデートに誘うか悩みつつ今日も俺は焼き窯に入れられた。

あっちゃんワンポイントアドバイス
パサパサ系のお菓子に飲むヨーグルトを合わせるの超好き。

(TSジオルドいいよね)
「こんにちは、お加減はいかがですか?カタリナ様」
第三王女ジオルド様が、お人形のように美しい顔を曇らせながら、病床に横たわる私に声をかけてくれた。
自分のバカさ加減に頭が痛くなる。ジオルド様に屋敷の中を案内していて、嬉しくてぐいぐい引っ張ったらジオルド様がよろめいてしまって、慌てて庇ったら、棚にぶつかって、上から花瓶が落ちてきて、私の頭に直撃して、気絶して、前世の記憶を取り戻して、また気絶して。
おまけに華の女子高生ボディが少年になっている。知識としては知っていたがアレを見るのは初めてで、正直戸惑いを隠せなかったけどここ数日で大分慣れてきた。
「…本当に、申し訳ありませんでした。私がお屋敷の中を見たいなんて言わなければこのようなケガも…」
ジオルド様が何やら頭を下げてこられましたが…どう考えても相手のことも考えずに、連れまわした私が悪いわけで、
「どうか、頭を上げて下さい。ジオルド様。そもそもが私が走って、勝手にケガをしただけのこと。むしろジオルド様がおケガをされるかも知れなかったことを思えば、こちらが謝らなければなりません」
平身低頭、頭を下げる他ない。王族の、しかもレディにあんな振る舞いをするなんて、記憶の戻った今では思い出すだけでも冷や汗が止まらなくなる。
今までは甘やかされて、わがままに育てられた横柄なお坊ちゃんだったけど、17年分の庶民生活の記憶が戻ってきた今、そんな振る舞いが出来るはずもなく。
「このようなかすり傷、すぐに治ります。しばらく、笑い話の種にでもしてやってください」
これ以上、ジオルド様に気を使わせてしまってはいけないと努めて明るく笑う。
するとなぜだか、ジオルド様だけでなく周りの使用人たちも一様に固まってしまった。笑い話の種、というのはいいすぎだったかな?
気まずい沈黙の中、最初に口を開いたのはジオルド様だった。
「ですが…あなた自身が傷を気にされなくても、その目が。いずれ王宮で働かれる際に影響が出てしまいます」
ジオルド様の心配げな視線の先には、包帯を巻いた私の右目がある。花瓶の破片が運悪く目を切り裂いてしまったのだ。
お医者さまの見立てだと、瞳孔がめちゃくちゃになっていて傷が治っても何も見えないだろうとのことだった。
最初に聞いた時はショックだったけど、よくよく考えたら私、貴族だし?外に働きに出なくても家に置いてもらえばそれでいいのではと、最近は思っている。ニートになるのは両親に申し訳ないけど、貴族社会とか面倒だしね。
でも…片目かあ。前世ではゲーム、アニメ、マンガ一通り嗜んでたけど自分が片目キャラになるなんて思ってもいなかった。今からカッコイイ眼帯をつけることを思うとワクワクしてくる。
「…リナ様、カタリナ様…」
「あ、はい」
眼帯のデザインを妄想していたら話を全く聞いていなかった。すみませんジオルド様。
「では、そういうことでよろしいですね」
「は、はい。わかりまし…た?」
天使のようなジオルド様が微笑を浮かべてこちらを見つめてくる。うーん、やっぱりすごい美少女!私が男だったら放っておかないわ。まあ今は男だけど。
「また、その包帯が取れたら、日を改めてご挨拶にまいりますわ」
優美に礼をすると、ジオルド様は寝室から去っていった。
正直何の話だったか分からないけど、使用人の様子からするといいことなのよね?
とりあえず、なんだかんだで疲れたし、ひと眠りしようすると、
「坊ちゃま!おめでとうございます」
執事のアンが揺さぶり起こしてきた。うわーっ何度見てもイケメン!やっぱりお嬢様付きの執事にでもなると顔もイケメンになるのね!
とても興奮した様子でこちらを揺さぶってくる。普段なら嬉しいかもしれないけど、今は疲れて眠りたい欲求が上回っている。
アンの顔を睨みつけてみるが、気付いていないようで上ずった声で話しつづける。
「ジオルド様は第三王女とはいえとても優秀であられるとのこと。現在王のお子は皆女子であられるので、将来王がジオルド様を女王に指名する可能性もあります!ジオルド様の婚約者ともなれば未来の王婿も夢ではありません。ご婚約、本当におめでとうございます!」
え?ちょっと待って。
「…アン?悪いけどもう一回言ってみてくれる?」
「ハイ!ジオルド様の婚約者ともなれば未来の王婿も夢ではありません。ご婚約、本当におめでとうございます」
「その…誰と誰が?婚約者?」
「何をおっしゃっているんですか坊ちゃま!もちろんジオルド様とお坊ちゃまのご婚約ですよ」
私の絶叫は、屋敷中に響き渡った。

あれから30年――――私は両目の視力を失い、ジオルドと静かに暮らしている。
学園を卒業するまでは左目だけでも問題なく見えていた。卒業後、魔法省で働きだしてから急激に左目の視力が落ち初めた。最初の内は暗い、明るいといった光の加減は見えていたがその内それも見えなくなり、二十歳を迎える頃には何も見えなくなった。
特に困ったことは無い。友人たちが頻々に訪ねてくれるものだから、退屈とは無縁だ。マリアだけは眼を治せる方法を探すと言って方々を飛び回っているので中々会うことが叶わない。
身の回りのことも、10年経てば慣れたもので、家の中なら1人で大抵のことはできるようになった。
ジオルドからは何度も離れようとしたが、毎回はぐらかされた。同情で付き合うのはやめて欲しいといったら、ぐーで殴られた。
目が見えないと耳がよくなるのか、陰口がよく聞こえるようになる。私自身もその内容はまっとうだと思っていた。ジオルドの重りになるなんて、破滅するより嫌だった。
ある時、公式のお茶会の場で私は大声でジオルドに婚約の解消を申しでた。こんな非常識なことをするような男を傍に置いておけないだろうという、半ば自暴自棄の策だった。
1人で喚いているとジオルドは突然、私の右手を握り、火で焼いた。
『絶対に離しません』
熱で皮膚が溶け合い、離したくても離せなくなった。その場にいたマリアが治療をしてくれなければ、本当に離れなくなったかもしれなかった。
それ以来、私はジオルドと暮らしている。学園を卒業してから何年か公務を務めていたが、アランが女王に指名されてから一線を引き、王都から離れた領地をもらい暮らしている。
こちらに移ってから子どもも2人できた。下の子が春に学園に行ったので家の中が静まり返ったようになっている。
ふと、焼き菓子の甘い香りが鼻腔をくすぐった。もう3時だったなんて。随分長い間、思い出にふけってしまったようだ。
今日は王都から届けられた新しい本を読み聞かせてくれるらしい。期待に胸を膨らませながら、愛する妻を迎え入れるため、椅子から立ち上がった。
MOD E■D No:□□■ 『温□い闇』

あっちゃんワンポイントアドバイス
非公式のTSMODを入れてみたけど、バグが多くてジオルドルートしかまともに進めない!
ジオルドちゃんはやっぱり破壊力凄いね…約束された勝利のヒロインだよ。
キースちゃんと噛みつき合うのも最高!こういう日常イベントが欲しいだけの人生だった。
でもストーリーの整合性をとるためだけにあの子をあそこまで傷つけるなんて許さない。

(TSアランいいよね)
塔の階段を昇ると、ブーツが立てる音が辺りに反響する。
ここは自邸の中に建てられた塔で、姉ジオルドが幽閉されている場所でもある。
姉は狂ってしまった。ある日城内で突如、魔法を使い辺りを焼き尽くした。
私とメアリ、ニコル、マリアが駆けつけ何とか抑えつけこの塔に閉じ込めた。
処刑すべしとの声も上がったが、何分、王族ということもあり、最終的に全ての地位をはく奪されたのち幽閉されることになった。
階段を昇りきった先に、カタリナがいた。
アイツは何度もジオルドとの婚約を解消したいと言っていたのに、ジオルドが押し込められてからは毎日ここにきて世話を焼いている。
自分の仕事もあるだろうと、追い返そうとしたが、婚約者なのでとのらりくらりと躱されて居座られてしまった。
「アラン!面会ごくろうさま。今日は落ち着いているよ」
輝くような笑顔を浮かべるカタリナの顔には数多の火傷痕が付いている。ジオルドの仕業だ。
「実は椅子を壊してしまったんだ。また新しいものを頼めるかな?」
「ええ…手配しておくわ」
時折、ジオルドは暴れ出し、部屋中の家具を焼き尽くす。狂気は未だに和らいでいない。
「いつも、姉のために申し訳ないわね」
「何、毎日楽しい日々を送っているよ」
明るく笑う彼の目元は深い隈に彩られている。昨晩も大分暴れたのだろう。陰鬱な気分になる。
カタリナの苦しんでいる姿は見たくない。今日こそ言わなければ。
『もう、十分だから、姉と婚約を解消して。自由に生きて』
でも、どうしても言えなかった。
もしカタリナがはい、と言えば彼はここからいなくなって、彼がここからいなくなれば私は彼に会えなくなって。彼に会えなくなったら私は――――――
「どうしたアラン?」
心配そうにこちらを覗き込んでくるカタリナ。その眼に私は、我慢が出来なくなり、抱き着いて、唇を、
「アラン!」
カタリナに力づくで引きはがされる。
「あなたにはメアリがいるでしょう!?」
私はいつも何も言えなくなる。こうするのだって1回や2回じゃないのに、それなのにカタリナはしっかり叱ってくれる。
「…ジオルドに面会に来たならどうぞ、お入りください。カギはいつもの所にあります」
「…」
惨めな気分で一杯になりながら、扉を開け、部屋に入った。
部屋の中はいつも昼間のように明るい。ジオルドの髪が燃え続けているからだ。
鉄格子の向こうで、膝を抱えてうずくまるジオルドの姿は、幽閉されているとは思えないほどに清潔だが、元王族とは思えないほどにやつれている。
私が近づくと目を覚ましたのか、顔を上げてこちらを見た。
「あら、アラン。久しぶりね」
「こんにちは、ジオルド姉さん。具合はいかが」
「ええ、今日はとてもいいわ」
口を開くたびに白炎が舞い踊る様はまるで、伝説に謳われるドラゴンのようだった。
いつでも魔法を放てる状態を保ちながら他愛もない世間話で時間を潰す。ここ数年で慣れっこになってしまった。
すると突然、ジオルドが黙り込んでしまった。
「どうしたの?姉さ」
「私のカタリナを、盗ろうとしたわね」
爆炎が放たれ、用意していた水魔法で消滅させる。ここ数年で慣れっこになってしまった。
「私の!私の!私のカタリナ!アアアアアアアアアア!!!」
「姉さん!落ち着いて」
「ああああああ!あの日もあいつら!私にふさわしくないなんて言って!私のカタリナを取り上げようとして!なにも分かっていないくせに!」
火が荒れ狂う。部屋中を蹂躙する圧倒的な熱量。必死で水魔法を展開し自分を守っている内に、やがて火の勢いが鎮まり、やがて完全に消え果てた。
魔法を解除し姉の様子を探る。床の上で眠っている。魔力の使い過ぎで疲れたようだ。
起こさないようにゆっくりと歩き部屋から出ていく。このことも忘れてしまうのだろうか、いや、或いは今までのこともすべて覚えているのだろうか。
何もわからない。どうすればいいのか、どうしなければいけないのか。
ただ、この扉を開けた先に思い人がいる。そのことだけは、確かだった。

TSMOD EN□ No:□■ 『水底で燃える嫉妬の炎』

あっちゃんワンポイントアドバイス
TSMODのバグが段々解消されて別ルートもまともに動くようになったわ!
個人的にTSアランちゃんみたいなツンツンしている女の子が湿度を出すのは個人的な好みで言えば大好物です。
ジオルドちゃんに抱いていた劣等感が解消されて伸び伸びとピアノを弾く場面は誰でもメロメロになること間違いなし!
でもあの子は火傷だらけなんだね。こんなに出来るまで、どれだけ苦しんだのかな。

(TSキースいいよね)
ある日、作業着姿のメアリ様が屋敷を訪ねてきた。鍬も既に担いでいる念の入れようで、用件はすぐにわかった。
案の定、彼は久々に畑を耕そうと言い、義兄さんも外に行きたがったので、土人形でベッドに横たわる義兄さんを連れて外に出た。
畑につくとメアリ様がすでに鍬をふるって土を耕していた。
私は園芸には興味が無いのでよく分からないが、プロが見れば何やら違うものがあるようで、興奮した様子で2人で話している。
木陰に座りながら義兄さんの様子を見守っていると、
「久しぶりだな、キース」
メアリ様に付き添ってきた、こちらは外出用のドレス姿のアラン様が、隣にどすんと腰かける。
「どうだ?最近のカタリナの調子は」「まあ、元気にやっていますわ」
一月前、王宮でクーデター未遂の事件が起こり、義兄さんとジオルド様が一緒に居る所を襲われた。
暴漢がジオルド様に襲い掛かったが、義兄さんが咄嗟にかばい、そのままジオルド様を抱えて窓から飛び降りた。
3階から落ちた義兄さんは両脚の骨を折る重症、ジオルド様は窓のガラスで顔を切っただけですんだ。
ジオルド様を咄嗟に守った功績も認められたが、それ以上に王女の顔に傷をつけたことが問題視されて、自宅療養という名目での謹慎を余儀なくされている。
まるで罪人のような扱いに憤慨もしたけど、今は昔のように義兄さんと過ごせることに安らぎを覚えている。
2人でとりとめのない話をしているうちに、義兄さんとメアリ様が私達を呼ぶ声がしたので、アラン様と2人で駆け出した。
ああ、本当に何もかも昔の、楽しい時のような―――――

雨が降っている。雨粒が窓を叩いている。雷光が闇を切り裂き、遅れて雷鳴が辺りに轟く。
昔のことを、思い出していた。
義兄さんの足は、治らなかった。傷口が膿み、腐り始めたので、やむなく切り落とした。
それ以来、義兄さんと私は自邸で暮らしている。王宮からの呼び出しもない。義兄さんは罪人にされた。
ジオルド様の負傷は、その場にいながら守れなかった義兄さんの責ということになった。
お父様とお母様は王宮で、義兄さんの無罪を主張しているみたいだけど、どうでもいい。
クラエス家の名誉なんて、義兄さんに比べれば塵に等しい。友人は誰も訪ねてこない。罪人への接見が禁止されているから。
寂しくはないけれど、昔の夢を見る程度には懐かしい。
義兄さんは、日に日に弱っていく。医者の見立てだともう長くないらしい。両脚を斬り落としたことの負担が寿命を縮めてしまった、とのことだ。
戦場でこういう傷は何度も見てきたと語る元軍医の言葉はおそらく間違いないんだろう。
命が流れ出ていく義兄さんを見るたびに、義兄さんを失いたくないという気持ちが募っていく。
やがて、その気持ちは義兄さんの生きた痕跡をこの世に残したいという思いに変わっていった。
暗い病室。私と義兄さんだけの部屋。使用人たちは全員下がらせた。今晩、この屋敷には義兄さんと私だけ。
苦し気な義兄さんの寝息がふいに止まり、
「キース…?」
義兄さんと視線が合う。口を開くと覚悟が漏れ出てしまいそうなので、私は無言で近づいた。
これは許されないことで、私はきっと、地獄に落ちるだろう。子どもも産めるかどうかわからない。その前に処刑される可能性すら考えられるほどの罪悪。
ガウンを床に落とし、下着を脱ぎ去り、義兄さん/愛しい人の上にまたがる。
それでも、このひと時の温かさが得られるなら私は喜んで地獄に堕ちよう。
愛しい人/カタリナの戸惑った口に唇を押し当てる。
例え地獄でもこの人と一緒なら、私はどこまでも歩いていける。
ベッドカバーを放り投げ、服をはぎ取り、私は――――――――
雨が降っている。雨が降り続いている。やまない雨が、降り続いている。

MO■ □ND 『地獄への旅立ち』

あっちゃんワンポイントアドバイス
大分バグも取れてきてもうほとんど製品版みたいに動くようになってきたわこのTSMOD。
キースちゃんはこっそりアランちゃんと相性がいいと私が嬉しい!
芸術家肌のツンツンアランちゃんと才気に溢れながらもフォローがとても上手なアランちゃん!誰か書いて!
もちろんジオルドちゃんと張り合うキースちゃんとかニコルちゃんと静かに語り合うキースちゃんとかも絵になるわー。
そんな子が曇るなんて許せないよね。

(TSニコルいいよね)

何故こんなことになってしまったんだろう。
ワイングラスを傾けながら呆然となる。
周りを見渡すと昔からの友人たち―――アラン、メアリ、キース、マリア―――が笑顔で語り合っている。
ジオルドは外せない用事があって来れなかった。弟のソフィアは病床から離れられない。
隣に顔を向けるとカタリナがこちらに気づいてニコニコと不思議そうに小首をかしげる。
彼の左薬指にはエンゲージ・リング。私と同じデザインの。
今日は、カタリナ・クラエスとニコル・アスカルトの結婚式だ。
改めて思う。何故、こんなことになってしまったんだろう。

きっかけはソフィアだった。
魔法学園を卒業し何年か経った頃、突然弟が病に倒れた。
発病すれば長くても数年の内にこの世を去ると言われている死病。
アスカルト家の総力を挙げて治療に取り組んだ。
名医と聞けば遠方からでも呼び寄せ、必要とあらば海のかなたからでも薬を取り寄せた。
これ以上何もできないことが分かった後は、ソフィアが安らかに過ごせることだけに心を砕いた。
病み衰えた弟を友人たちは度々見舞ってくれた。お蔭でソフィアはいつも笑っていられた。

ある日、友人たちが帰った後の夕日に染まった部屋で。
ベッドに横になったソフィアは言いだした。
『姉さん、カタリナさまと        』
きっと熱で錯乱しているのだろう。たとえそうしたいと思っていても、許されない恋もあるものだ。
聞こえなかったことにして額の氷嚢を取り替えようとすると、
『姉さん』
すっかり細くなった手を伸ばし、弱弱しい力で私の手を握ってきた。
『お願いします。最後の頼みです』
手を振り払うべきだった。
しかし、私にはどうしても、今にも力尽きそうなこの手を振り払うことができなかった。

やってみれば拍子抜けするほど簡単だった。
弟への贈り物を口実に使ってカタリナ1人を呼び寄せた。ジオルドが来れない日を狙って。
買い物を手伝ってもらった後、お礼を口実に街の宿屋にある酒場で食事と酒を振るまった。
酒の勢いにまかせて半ば自棄になりながらカタリナにしなだれかかると、彼は真っ赤になってトイレに行くと言って席を離れた。
その隙にグラスに眠り薬を混ぜた。ソフィアのためにと海外から取り寄せた薬のほとんどは偽物だったが、ごくまれにこういった本物も紛れ込んでいた。
この薬のお蔭でソフィアは夜、病に苦しめられることなく休めている。
席に戻ってきたカタリナは先ほどのことをなかったことにするつもりのようだった。
彼はとりとめのない話をしながらグラスを傾け、それからすぐにテーブルに突っ伏た。
金を払って部屋まで運んでもらい、そのまま朝まで過ごした。
私の拙い誘惑に彼は情熱的になった。
部屋を出る時、酒場の主人が『さくばんはおたのしみでしたね』と言った下卑た笑顔が今でも忘れられない。
ジオルドとの婚約の解消には2人で向かった。
手をつないだ私達を見ただけで彼女は全てを理解したようだった。
感情の無い声で私達を祝福し、濁った瞳で私たちを見つめ、ナイフで縫い付けたハンカチに婚約解消の旨をその場で署名した。

結婚式は盛大だった。
式の後、両家の懇親も兼ねてパーティーが開かれた。会場には昔、カタリナの誕生日を祝った場所を選んだ。
着飾った友人たちを見るとまるで、あの誕生日の時からずっとここにいるような気もしてきたが、ジオルドとソフィアが居ないことで現実に連れ戻される。
友人たちは皆、笑顔で祝ってくれている。
ジオルドとソフィアがいないことをアランが残念がり、2人の分も祝わないとねとメアリが返す。
メアリとアランの結婚式に呼べばいいとカタリナが言えば2人そろって顔を赤くし、あまりからかってはいけませんとキースがカタリナをたしなめる。空いているグラスを見つけたマリアがワインを注いで回った。
人生で一番、楽しい時間のはずなのに。私は1人、罪悪感に蝕まれている。
私は家族の頼みと引き換えに、友人が愛していた人を奪い取った。
弟のためと言い訳を重ねながらも友情を足蹴にした罪の意識が胸を締め付ける。
この上式にジオルドが来るなんて耐えられないので、絶対に外せない予定がある日にあえて式を行うことにしたほどだ。
ジオルドに送った招待状が不参加の印をつけられて戻ってきた時、改めて自分がどんなに卑怯にふるまったかが思い返されて、吐いてしまった。
ああ、なんて苦しいんだろう。
時計の針は遅々として進まない。いつまでも式が終わらない。
それでも式の間は抜けるわけにもいかず無理やり笑顔を作り会話を続けていると、不意に後ろから抱き着かれた。

『婚約おめでとう』
いるはずの無い彼女がこの場にいることに困惑を隠せない。
金の髪、蒼の瞳、火の魔力を有した第三王女。
私の元友人で、カタリナの元婚約者。ジオルド・スティアート。
彼女は嬉しそうな声で何かを話している。
どうしても外せない用事があるようわざわざ装ったとか、会場は思い入れのあるこの場所にするだろうから日取りを絞るため裏から手を回したとか。
サプライズは大成功ね、などと言っているが全く耳に入らない。カタリナも、友人たちも突然のことで固まってしまっている。
不意にジオルドが私の耳元に口を近づけ、
『あなたが一番幸せになる時まで待ってるわ』
私以外に聞こえないような声でそっと囁いた。痛いほどに私を抱きしめてからジオルドは手をはなし、
『友人として、あなた達の幸せを心から願っているわ』
今度は皆に聞こえるように言った。
アランが怒ったような顔で私にも黙っていたのとジオルドに詰め寄ると、メアリがまあまあいいサプライズだったじゃないかとなだめすかす。
カタリナが悪い顔を浮かべながら俺も真似してサプライズをというと、キースが義兄さんにそんな難しいことができるわけないでしょうと呆れたような声を出す。マリアは笑いが止まらないようでお腹を押さえている。
私は1人、親友に復讐を宣言されたことを噛みしめていた。
ジオルドは、今は私に手を出す気はないらしい。
罪悪感に蝕まれ罰されることをむしろ望んでいる私ではなく、幸福に満ち溢れ奪われることを恐れるようになった時、彼女は人生の絶頂期にいる私を突き落としに来るだろう。
なんて…なんて素晴らしい贈り物だろう!こんな素敵な贈り物を送ってくれるなんてジオルドはやはり、私の親友だ!
汚い卑怯者の私をこんなに想ってくれる、そのことだけで私の心が幸福で満たされていくのを感じる!
ああジオルドはこんな私を罰してくれる!激情に任せて叩き潰すのではなく、私が一番苦しむ時を狙って裁いてくれる!
ジオルドから愛する人を奪い取った達成感で、ジオルドを嫉妬させている優越感で、私の胸から幸福感が溢れていくのを感じる!
私はこの日、初めて心の底から笑顔を浮かべた。

■■□ END『美女と魔獣』

あっちゃんワンポイントアドバイス1/2
ついにニコルルートクリア!まだまだバグもあるけどもうほとんどまともに動いてるこのTSMOD!
物静かな魔性の美貌を持つ弟大好きお姉ちゃん。私はいいと思います!
特にジオルドちゃんと幼馴染の関係なのが私にダイレクトヒットでした。
2人とも一見穏やかなのに心には熱いものをもってるっていうのがいいよね…
ソフィアくん?うん…まあ…新鮮な体験だったかな。

深夜、カタリナを起こさないようベッドを抜け出しソフィアの寝室に向かう。
音を立てずに扉を開け、そっとソフィアの顔を覗き込む。
寝息を立てるソフィアの顔をじっと見つめる。
ソフィアの最後の願いは叶えられた。これから私はカタリナと暮らして、やがてジオルドに破滅させられる。
でも、私は本当にソフィアの頼みというだけでここまでしたのだろうか。
私は、私の気持ちへの言い訳が欲しくてソフィアを利用したんじゃないだろうか。
本当にあの日ソフィアは―――――
いつの間にかソフィアは目を覚ましていた。病にかかった時から喋れない口を必死に動かして私に何かを伝えようとしている。
『―――!―――!』
そう、ソフィアは喋れない。なのにあの日はまるで違和感を感じなかった。
『―――!―――!』
これは本当にソフィアの頼みだったのか?
ソフィアはもしかしてずっと私を否定したのでは?
本当にソフィアが私に頼んだのか?
私がにそう聞こえるふりをして自分の罪悪感を紛らわせて、カタリナへの想いへの言い訳を作り上げたのでは?
何が本心か、最早自分でも分からない。
分かっているのはもしこれが、ソフィアの頼みなんて本当は無かったとしたら、私は家族への愛をも自分の恋に利用する外道になってしまうということだ。
それは…少し嫌だった。
だから私はもう何も考えないことにして部屋を出た。
ソフィアの眼から零れ落ちた涙には気付かないふりをした。

□■□ END『恋は盲目』

あっちゃんワンポイントアドバイス2/2
本当のことを知っていても口に出来ない事って、あるよね。
だからノーコメントで。

R-18版
眠っているカタリナの顔をじっと見つめる。
朝まで誰も来ないように言いつけておいたので、この部屋には私と彼の2人だけ。
そっと足音を立てないようにベッドに近づき、彼のシャツをはぎ取るように脱がせる。
胸元に零れたワインと汗の混じった香りが辺り一面に漂う。
呼吸と共に上下する裸の胸にそっと唇を押し付ける。舌先に彼の汗を感じながら首筋まで舐めあげ、そのまま覆いかぶさって唇を奪った。
舌で唇をこじ開け彼の口内を舐め回す。歯を擦りあげ、舌を舐り、頬の粘膜を味わう。やがて息苦しくなって顔を上げると、カタリナは眼を見開いていた。
何か話そうとする彼の口を再び口でふさいだ。今度は時間をかけながらゆっくり、互いの口が一つになったかと思うほどにじっくりと味わった。
彼の目が焦点を失ったように虚ろになったのを確かめてから起き上がり、彼の腰に手をかけ残りの衣服を――――

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