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▼ハロンタウン 自宅

今年もついにジムチャレンジの季節がやって来た。
チャンピオンとして関わって長く経つが、今年は特別なチャレンジとなるだろう。
何故ならそう、息子のホープが挑戦するからだ。
他にもジムリーダーの子ども世代が多く挑戦するらしい。
近年はパワースポット以外でのダイマックスポケモン出現の増加傾向もあり参加者が減少していた為
久々の当たり年では?とメディアでは騒がれている程だ。
ホップ……夫と共に息子を見送る。
ポケモンよし、スマホロトムに図鑑よし、キャンプ道具よし。
お小遣いは奮発して5万円、ちょっと甘すぎるだろうか?
期待を顔に浮かばせる様はまるであの日の私達のようだと夫が言う。
本当にそうだと思う。
私はあの日のママみたいに笑顔で息子を送り出せただろうか。
約束の時は近い


▼エンジンシティ スタジアム

開会式も無事終わりジムリーダー達と集まり会議をする。
とはいってももっぱら今後の行程を確認する程度だ。
この段階になると準備はしっかり出来ているのだから、まあ顔合わせが目的だ。
資料に落とした目を上げると、マリィと目が合った。
心配そうな顔で此方を見つめるマリィ、そんなに深刻な顔をしてたかな……?
周りを見ると他の皆も似たような顔をしていた……。
大丈夫、私は元気だよと笑顔を返す。
予定通りに行けば大丈夫だから。

約束の時は近い。

▼ナックルシティ

今日も今日とて野良ダイマックスポケモン対応の為にチームを率いて働く私。
この時期はジムリーダーが動けないので、必然的に忙しくなる。
かつてガラル各地で多数のポケモンがダイマックスして暴れたガラルの悲劇から5年が経った。
多くの死傷者が出たこの事件の爪痕は深い。
それ以後ジムリーダー及びチャンピオンの業務にこれの対処が増えるのはとも言えた。
だからとても忙しい。
そんな時に限って息子が同期のチャレンジャーと共にポケモンセンターに入っていくのを見た。
駆け寄って抱きしめたかったが、部下たちの手前それを我慢する。出来なかった、ぎゅー!
チャレンジは順調らしい。
親馬鹿ながら優秀な息子だと思う。
シュートシティでの再会を約束しその日は別れた。

約束の時は近い。


▼シュートシティ

チャンピオンカップの出場者が続々と決まっている。
今年は出場者が多く、時間が掛かりそうだと報告があった。
時間が掛かるのは好都合だけどね。
ふと出場者のリストを見ると、息子の名前があった。
初挑戦で此処まで来るとは思わず、ついにやけてしまう。
マリィに怒られた。
ここから先は忙しくなるからシャキッとしろだって。
分かってるよ。
でも準備はバッチリなんだから、後はどーんと構えてるだけじゃん!

約束の時はもうすぐそこだ。


▼???

あの人たちが私の下へ向かっているらしい。
本気のジムリーダー達を倒して、私を倒しにやってくる。
怖い、本当に怖い。
もう半分は突破されたと報告が入る。
あと少しなのに……運命は残酷だ。
でも大丈夫。
例えどんな状況でも私は私のやるべき事をやるだけだ。

どれくらい時間が経っただろう。
私の祈りを嘲笑うかのように、音を立てて扉が開く。
そこには愛する夫と息子が2人、驚いた表情でこちらを見ていた。

約束の時まであと1時間。


▼ムゲン団アジト 最奥部

「幹部の皆を倒してやく此処まで来たね、2人とも。偉いぞ!……なんてね」
「そう、ガラルの過去を改変する為に暗躍してきた秘密組織ムゲン団、その総帥はママでしたー。はい拍手!」
ぽかんとした顔で2人が此方を見る。当然だろう。
「吃驚してるよね、大丈夫ちゃんと理由は話すから……」
「私たちの目的はね、ガラルの悲劇を……そして各地で多発するダイマックス現象を解決する為なの」
「原因もね、もう分かってるんだ。全部ね……私とホップが結ばれたからなんだよ?ねえ覚えてる、私たちが付き合いだした切っ掛け。私は……覚えてないの気が付いたらそうなってたの」
こうして言葉にしてみるとあまりの馬鹿馬鹿しさに笑ってしまう、けれどこれが事実だ。改変によって私たちは結ばれた。
「ムゲンダイナのエネルギーを使った過去改変はね、かつて別の世界でも行われたの」
「けれどもそれは失敗して、行き場を失った余剰エネルギーが人々の願いによって指向性を得て私たちの……その世界にとても良く似た世界に辿り着いたの」


「世界を改変するだけだったら良かったの、世界を改変してそれでも有り余ったエネルギーが今の状況を生んでるんだ」
「それを根本から……最初の改変から打ち消すのが私たちの目的。私たちは過去を元に戻すだけ」
2人は困惑の表情を浮かべたまま佇んでいる。仕方がないと思う。私だって、平行世界の観測で事実を知った時こんな顔だっただろう。
それでも言い聞かせるように、そして時間を稼ぐ意味でも説得を続ける。


「ある特定のタイミングでムゲンダイナのエネルギーを放射する事で、過去に遡る改変のエネルギーを打ち消す事が可能なの」
「そうすれば過去の事件で失われた命と、これから先起こる被害が防げるのよ?素敵でしょう?」
「私たちの関係は変わっちゃうけど……、皆消えたりはしない。ホープにもママよりずっと綺麗で賢くて素敵な新しいママが出来るから……」
本当は嫌だけど、これが最善。きっとこれが運命なんだ。

「だから……あと少しだけ待ってくれない?ママの最後の仕事を見届けて欲しいの」
その言葉を遮るように2人がモンスターボールを構える。
私を止める気らしい。2人とも本当に優しいね、大好きだよ。

「そっか、そうだね。2人ならそうするよね」
「でもこれは『私』の罪だから、私が償わないとダメ……って言っても納得してくれないよね?私は良いの、ずっと良い夢を見させて貰ったから」
「それでも止めるなら、力尽くで止めて見せなさい」
「私はムゲン団総統にして常勝無敗のチャンピオン」
「無限の未来の為に、夢幻の今を壊す者」

モンスターボールを手に取り、最も信頼する子たちを選ぶ。
「お願いヨクバリス、ザシアン……2人を止めて」




ポケットモンスター剣盾2クリア後サブイベントを書きました
お納め下さい
親子のキャッキャウフフがかけました

「」ウリ

私はガラルに仇なす災禍を打ち払う剣。
ガラル全土を巻き込まんとする巨悪は、斬らねばならぬのです。
それが……それが。
私を制し、私を受け入れ、私に力をくれた……
かけがえのない主人であっても。
あの日は、よく晴れたキャンプ日和でした。


『わっかんねーバーン。俺は蹴り心地が良ければそれが一番バーン』
『いや猟奇的すぎるウホ……』
いつもの下世話な、しかし確かな紐帯のもと交わされる、何気ない会話。
薪を取りに行くエースバーン殿とゴリランダー殿を見送り、彼女に目をやります。
近頃は浮かない表情で考え事をしていることが多い彼女。
彼女を励まそうとしてか、インテレオン殿とヨクバリス殿はいつもより張り切ってカレー作りを手伝っています。
「姐さーん!今日のカレー何がええー?」
少し離れたところに立つ私に、ヨクバリス殿が声をかけてきました。
『私に聞けば甘口としか答えませんよ』
「せやったせやった!忘れとったわ!」
『えー俺は辛口のほうが好きレオン』
『おや、あなたは先日リクエストしたではありませんか』
「なはははは!今日は姐さんの勝ちやな!ほな甘口で!」
――ああ。
素面では、やれそうにありません。

背の剣を強く噛み締め、一息に抜き放ち、姿を変じます。
一差し舞わねば、この胸の迷いを振り払えない。
あなたは私が討ちます。今日。ここで。
「知っとるか嬢ちゃん?甘口言うても甘いだけやと旨ないんやで?
カレーっちゅうもんは辛味と苦味があってこそ……聞いてへんわ」
『ん……?(ザシアンの姉さん、なんでキャンプでつるぎのまいしてるレオン?)』
「姐さんのためやし、しゃーない、とっときのヨブ入れてまうか……」
『ヨブ!?賛成レオン賛成レオン!もっと辛くしていいレオン!』
「トカゲに任せたらいっつもクラボ山盛りにしてまうからなー」
燃え滾る高揚感が胸を満たします。
やれる。絶対に失敗しない。
これもガラルのため。一瞬で終わらせる。
取り返しのつかないことになる前に、せめて痛みなく、安らかに。
渾身の力を込めて地を蹴ったのと、彼女と目が合ったのは、ほとんど同時でした。


カレーの材料を手にする彼女の姿は、いつもと変わらない愛らしい少女そのものだった。私の敬愛する主その人だった。
でも……彼女は変わってしまった。「ムゲンダイナのエネルギーを利用すれば過去へ戻ることも不可能ではない」……とある人間が囁いたその一言で、彼女は決して触れてはならない領域へと手を伸ばそうとしていた。
それは…それだけは。ガラルの守護者として――見逃せるものではないのだから。

牙が砕け散りそうな程に顎の力を込める。痛みは与えない。恐怖を感じる暇もなく一撃に伏す。

それが、私にできるせめてもの情けだ。
さらば、私の愛しき主よ――!

ズシャリと、肉を切り裂く感触が、牙を通して伝わった。




『チャンピオンを突如襲った不幸な事故』
ワイルドエリアでキャンプ中のチャンピオンが謎のポケモンに襲われたとのことです
情報によれば、チャンピオンは無事ですが、手持ちポケモンのうち3匹が重症、一匹が死亡、一匹が行方不明とのことです
一説によれば連戦連勝のチャンピオンを妬んだムゲン団の仕業との噂もありますが、真相は未だ掴めておりません
デイリーガラルがお伝えしました



疾走。
一直線に、彼女の喉元へ。振り抜く。
深い手応え。殺(と)った。しかし――
『見事……』
――ヨクバリス殿が彼女を突き飛ばし、我が必殺の剣の間にその身を割り込ませたのです。
失敗した。仕損じた。剣の王ともあろうものが。己が身命をも厭わぬ覚悟に臆したか。
体を断ち割られてなお、ヨクバリス殿は事切れずに私の目を見据えています。
怖気を覚えた私は、即座に彼の体を踏み躙りました。
『アンタ……アンタ何やってんだ!!!!!!!!!!』
激昂するインテレオン。こうなってしまっては斬るほかありません。
薪組が戻る前に始末しなくては。幸い、彼女はまだ事態が飲み込めていない様子です。
彼が恐慌から立ち直る前に飛びかかり、一閃。
首は取れず。流石に速い。だが両目は潰した。
ああ。容易い。殺れる。殺れてしまう。殺る。
側背より熱気。追撃は諦め回避。


『ゴリラ!正面任せた!』
『承知!』
余裕をもって2つ目の火球を躱すと、ゴリランダーが距離を詰め、組みつこうとしてきます。
側面から火球を撃つつもりでしょうが……それは、私にはあまりに遅すぎました。
近寄るゴリランダーのふところに突撃し、利き腕を斬り捨て、エースバーンに突進します。
『ウサギ……逃げろ……!』
『あぁあぁあぁあぁ!!!!!!』
鼻先に迫る膝を躱し、地に転げたエースバーンの利き脚を、前脚で踏み砕きました。
激甚の絶叫。その痛みも、すぐに終わらせて差し上げます。
確実に胸を貫くために剣を振り上げたとき、私はただならぬ戦慄を覚えました。
『(((やめてくれ)))』
"奴"が、ボールの外に出ているのです。


~~~
おっちゃん?
えっ?なんで?
どうしたの?起きてよ。
おっちゃん、おっちゃん。おっちゃんってば。
私、ぼーっとしてたみたい。
カレー、もう出来てるよ。
なにが起きたの?食べよ?おっちゃん。ねえ。
ねえ……寝てないでさ……ほら……
なんで……離してよみんな!待って……やだ……!
カレー出来てるから……おっちゃんまだ寝て……
そうだげんきのかたまり……大丈夫……まだ……
待って……いや……やだよぉ……やだぁ……!
助けて、助けて、ムゲンダイナあぁ……!
~~~



『(((なんで だ)))』
『……』
口元に病んだ炎を燻らせ、災厄が呻き声を上げます。
『(((ごすも みんなも なにも してないのに)))』
『……』
『(((おれが あいてだ けんのおう)))』
その後の戦いは、よく覚えていません。
仲間であった彼らを斬る過程で、どこか捨て身になっていたのでしょう。
剣戟の末、私の体は夥しい火炎に巻かれ、あっという間に限界を迎えました。
無念です。このままでは、ガラルの民の生きる現在が、彼女の一存で無に帰してしまう。
"あれ"にも浅くない手傷を負わせたとはいえ、それでは何の解決にもなりません。
斬る。次こそ必ず。今は身を隠し、絶好の機を伺い続け、必ず。
ふと、彼が倒れ伏した場所に目をやりました。
辺り一帯、真っ黒焦げで、何も見つかりませんでした。
全てが灰燼と化したキャンプ地に弟の接近を感じたのと同時に、私の意識は途切れました。


ポケットモンスター ソード/シールド2
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