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ふたば/TOA怪文書/アシュナタ前提ティアナタ

あの名文をまた読みたい人用の保管庫

スレッド:http://img.2chan.net/b/res/493515773.htmより
作者:不明

『ファーストキスは海の見える場所で、心を預ける人に捧げる事があなたにとって最も幸いである』
キムラスカ・ランバルディア王国に伝わる乙女の戒律。少女なら誰しもが憧れるその一説に心惹かれるのは王女たるナタリアも同様だった
明日執り行われる結婚式の会場を海の見える丘に設定したのも、彼と、アッシュと共に幸せを目指そうとする彼女なりの決心の表れだった
ルークの記憶を背負ったアッシュのこれからは想像を絶する苦難に満ちているだろう。内外に課題は山積し、立場は意志を何重にも縛り付ける
それでも、それは彼が幸せになれない理由にはならない。深い闇の中にあっても幸福を諦めない強さを、ナタリアは確かに持っていた
それは彼女の生来の気質と、なによりあの旅の中で育まれた大切な財産だった
「アッシュ」と呟いてみてから、ナタリアは確かな決意を込めて口を開く「生きていきましょう。共に」
胸の前で祈るように組まれた手を強く握り、ナタリアは決意を新たにしていた
窓辺から春の朝日が差し込み、つがいを見つけた小鳥達が連なって嬉しそうに鳴いている
それは宮殿に不審者が侵入した旨の報告を受ける、ほんの少し前の出来事だった

不審者を一目見たナタリアは即座に拘束を解除させ、荒れきった身なりと髪をメイド達に整えさせてから応接室へ招いた
彼女の隣にアッシュはいない。結婚式の前日、様々な公の手続きを必死に捌く彼にこれ以上の負担をかけるわけにはいかないと思考した上での決断だった
やがて応接室の扉が開く。不審者は両手を力なくぶら下げ、ゆらゆらと重心を定めない足取りでナタリアの方へと歩み寄る
ナタリアは声のトーンに気を遣いながら、努めて明るく彼女に話しかけた
「久しぶりですね、ティア。その後はどうですか、食事はきちんと取っていますか」
ティアは何の表情も見せないままナタリアに近づいていく。彼女が今何を考えているのか、ナタリアには図りかねていた
「ティア」
ついに言葉に窮したナタリアが彼女の名前をつぶやくと、ティアは突然足を止めてナタリアの方をじっと見つめた
沈黙が二人の間に隙間なく敷き詰められていく。毒の空間に投げ込まれたような息苦しさを感じたナタリアは、息を殺してじっと彼女の声を待った
「ルーク」
我慢に我慢を重ねたナタリアへようやく手向けられた言葉は、ただそれきりだった

「いえ、わたくしは」
たじろぐナタリアの返事も待たず、ティアは倒れ込むようにナタリアへ抱き着き睦言を繰り返した
「ルーク。ルーク。ルーク。ルーク……」
心を病んでいる。そう判断したナタリアの直感はいつも以上に正しく機能していた
「わたくしはルークではありませんよ、ティア。病院に行きましょう、専門の方にかかればきっとよくなりますわ」
自身にかけられたティアの重みを細腕で懸命に支えながら、ナタリアは気丈に微笑んでみせる
ティアは表情を一切動かさないまま器用に眼球だけを回転させて彼女を見やると、憎悪すら込めた視線でその笑みを射抜いた
「あなたは、ルーク、じゃ、ない、の?」
再び直感が走った。精神は専門外とはいえ医術を扱うナタリアが一目で分かるほど、ティアの症状は末期的だった
刺激の仕方によってはお互いの命に関わる事態に発展しかねない状況下で、彼女に与えられた選択肢はそう多くなかった
「ルーク、ねぇ、ルーク」
「ティア。本日は何をしに来られたのですか」
肯定も、否定もしない。結局、ナタリアにはそれしかできなかった
ただ対応したのがアッシュでなくてよかったと、その僅かな幸運に心から感謝していた

ナタリアが逸らした話題にティアが対応するまでのおおよそ五分間、応接室は沈黙していた
その間ティアは顔を赤らめ、時には震え、時には目じりに大粒の涙を溜めてナタリアを困惑させた
その内心で起こっているであろう精神活動を想像する事そのものが既に狂気の所業であると、ナタリアはその都度自らを戒めて強く拳を握った
やがて何度も突っかかりながら、ティアはようやく己の言葉を語り始めた
「ルーク。私、ずっと言いたかった。好きなの。大好き。この世の誰よりもあなたのこと、愛しているの。なのにごめんなさい、言えなかったの。ごめんなさい」
ナタリアは返す言葉を失っていた。呆然とする意識の中で、体中の血液が手足の先からとめどなく地表へ零れ落ちていく感覚がナタリアを心底震え上がらせた
「ルーク。ルーク。キスをしましょう。あなたが夜の海のようって言ってくれたから私、ずっと海にいたのよ。私、ちゃんとあなたが好きなものになれたわ」

瞬間、突如としてティアの体温が急激に低下した
肌が触れ合う箇所からたちどころに凍り付いてしまう、少なくともナタリアにはそのように感じられる無明の極寒だった
まさしく夜の海のような冷たさと暗さを湛えたティアの肉体はナタリアにぴったりと絡みつき、彼女からあらゆるものを奪い去っていく
そうしてティアの深淵そのものの眼と唇が無表情のまま自らに接近してくる頃には、ナタリアの本能はすっかり恐怖と後悔に染まっていた
いっそ狂ってしまいたい。泣きわめいて暴れて、この状況が起こる前まで時を巻き戻してほしいとさえ思った
だが、それでもナタリアは気高かった。乱れる本能を理性で抑え込み、ティアにとって最善の選択肢を掴もうとする強さが彼女にはあった
それ故にナタリアはあくまでも拒絶の声をあげず、まっすぐにティアの深淵を睨み続けた

唇と唇が触れ合う瞬間、思わず顔を引きそうになったナタリアをティアは逃がさなかった
両腕をナタリアの首に絡ませて固定し、いつまでもいつまでも、盲目的に唇を合わせ続けた
ナタリアは自身を絡めとる冷たい腕に抱かれながら、今にも千切れ果てそうな心を繋ぎとめる事で精一杯だった
「ルーク」
息苦しくなったナタリアが呼吸のため口を開いた瞬間、ティアは彼女の口膣へ容赦なく舌を捻じ込んだ
体温を無くした何匹ものミミズが口の中を一斉に這い回る感覚に蹂躙されたナタリアの意識はいよいよ遠のき、一瞬でも気を抜けば二度と帰ってこれない場所へと連れ去られる寸前まで至っていた
そうした方が楽だと絶望する心の声から必死に耳を塞ぎながら、ナタリアは自身に残されたありったけの力を込め、繋ぎ止めるようにしてティアの体を抱きしめた
ティアはしばらく苦しそうな息を漏らしていたが、やがてナタリアを捕らえる腕を解き、力なくその場にへたり込んだ
ナタリアが触れた彼女の両肩には、ほのかな人間の体温が戻っていた

ティアは震えながらナタリアを見上げる。その眼は深淵から解放され、代わりに底知れない後悔と絶望に染まり切っていた
「ナ、タリア……?私、なんてひどい事を、あなたに、私」
ナタリアはこの日初めてティアから目を逸らした。それがどんな感情から来る行動なのか、ナタリア自身にもわからなかった
「いいのです、ティア。もう全て終わりました。だから、いいの」
幼子をあやす母のように、ナタリアはティアと目を合わせないまま優しく抱擁する
ティアは彼女の腕の中で終わらない懺悔を繰り返しながらいつまでも泣き続け、やがて操り糸が切れたようにぱたりと眠りに落ちた
ナタリアは眠るティアをそっとメイドへ託し、丁重に扱う事と専門医に診せる事、監視を付ける事を命じて応接室から下がらせた
頭を下げたメイドが扉を閉じた瞬間、一人残されたナタリアは俯いて深く息を吐いた

再び静寂が支配した応接室で、ナタリアは自身の唇を指でなぞった
二人分の唾液が混ぜ合わされた粘着質の銀糸が口の端から延び、プツンと切れる。ナタリアの涙腺が決壊したのは、それと同時だった
ドアを背にして床に座り込み、声にならない嗚咽を上げながらナタリアは泣いた
泣きながら、乙女の戒律や仲間への思い、アッシュへの罪悪感がない交ぜになったグロテスクな感情を腹の中で何度も味わった
やがて湧き上がる悪感情は耐え難い吐き気となってナタリアの胃を執拗に攻撃し、朝食を無残な吐瀉物へと変えて応接室の床に撒き散らす
手足や服が汚れるのも構わずあらゆるものを吐き出しきったナタリアは最後に数度激しくせき込んだ
そしてすっかり感情を無くした瞳でふらふらと立ち上がると、結婚式の準備をするため部屋を後にした
無人の応接室の窓から見える林檎の樹は陽の光を受け、沢山の葉を付けた枝を天へと伸ばしている
その枝の一つで、つがいを見つけた小鳥達が連なって嬉しそうに鳴いていた


ふぁぁ……今日は終わりじゃ終わり
なんじゃ坊……寝物語は一日で終わらせぬものだと何度も言っておろうに
いいか?女の欲はこれ合欲、男の欲はこれ業欲。坊が坊である以上は欲張らずに欲張りを受け入れる事が肝要じゃ。さもなきゃモテんぞー
次回はそうじゃなぁ、結婚式後の初夜でも……え?もうやった?いやー魔女も長いとどーでもいい事は忘れてしまっていかんの!
では改めて次回は『テイルズオブザレイズ・レイドイベント!エミルとマルタの結婚式~仲人はマギルゥ~』乞うご期待じゃ
……坊も中々にねちっこい性格よな。ベルベットに毒されておらんかー?だがこうなれば仕方あるまい!
占いを交えたマギルゥクイズで決着を付けようではないか!見事当てれば続きを話してやるぞー?
では問題!ナタリアとアッシュの間に子供はできる?できない?フィッチ・ウィッチ・フィッチ!
……ふふ、坊ならそう言うと思っておったよ。ま、マギルゥクイズは正解こそが不正解。不正解も当然不正解
よって坊はまだまだ修行が足りんかった訳じゃな!ええい知らぬ知らぬわ儂はもう寝る坊も寝ろ!
やっぱり未来は魔女のみぞ知るってわけでおやすみマギンプイじゃよー!

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