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ふたば/TOA怪文書/ティア→ルーク

あの名文をまた読みたい人用の保管庫

スレッド:http://img.2chan.net/b/res/493890619.htmより
作者:不明

ティア・グランツの朝はねぼすけなルークを起こすことから始まる
いつまでたっても起きてこない彼を優しく揺り起こした後
窓から差し込む暖かな朝の光を浴びながら、朝食の準備に取り掛かるのだ
…あの激動の旅が終わり、ティアとルークは国の保護観察下の中、現在は人里離れた場所でひっそりと暮らしていた
無理もない。仕方ないことだとティアは思う
なにせ自分の立場が立場だ。ルークにしても、『ルーク・フォン・ファブレ』を返したとはいえ同一人物が二人いては混乱の元となるだろう
それでもティアは幸せだった。ゆったりと過ぎる平穏な日々をルークと共に過ごせることは幸せだった
顔を洗い終え、それでも寝ぼけ眼を擦りながらやってきたルークを座らせる
そうしてティアの用意した朝食を美味しそうに平らげるルークを、
ティアはいつまでも目を細めて眺めていた

「久しぶりですね、ティア。…ごめんなさい、あまり会いにこれなくて」
申し訳なさそうな表情でナタリアが頭を下げた
それにティアは気にしないでと慌てて頭を上げさせる
今のナタリアはアッシュ…いや、ルーク・フォン・ファブレと結婚して多忙な日々を送っている
こうしてティアに会いに来る時間を作るのにも苦労したことだろう
「お変わりはありませんか?必要なものがあればすぐに言ってくださいね」
何も心配いらないと、ここ最近の出来事を話しながら家の中へと案内する
ティアの話を聞きながらナタリアもにこやかに微笑んでいた
その異臭を感じ取るまでは
さっと、ナタリアの表情が強張った。ティアの静止も聞かずズカズカとキッチンへ入り込むと異臭の源へと近づいていく
それは残飯入れだった。一度も食べられぬまま捨てられた大量の残飯がそこにはあった
「……ティア、あなた……」
今にも泣きそうな、怒りだしそうな、複数の感情でぐちゃぐちゃになった表情を浮かべるナタリアを
ティアは不思議そうな顔で見つめていた

……気がついたら。夜になっていた
ぼんやりとした頭で、ルークに夕食を用意しなければと思い出す
きっとお腹を空かせているだろう。文句の一つも言ってくるかもしれない…ちょっとは手伝ってくれてもいいのに…
この家での暮らしを始めてから上達した手際の良さを発揮して、ティアは手早く二人分の夕食を用意した
その出来上がりに自画自賛して、しんとした静寂に満ちた家の中、食事が用意できたわよとルークを呼んだ
そうしてテーブルに料理を並べ終え、自分も席に着こうとした瞬間
ズキンという痛みと共に目まいがティアを襲った
足がもつれ身体が倒れる。ルークが驚いた様子でこちらを見ている。反射的にルークに助けを求めて手を伸ばす
ルークがティアを抱き留め……られなかった
ティアの身体はルークをすり抜けていった。代わりに伸ばされたティアの手は無意識にテーブルクロスの端を掴み、そのまま落下していった
テーブルクロスが引きずり落とされ、その上に並べられていた二人分の料理が床にぶちまけられた

割れた皿、無残になった夕食、打ち付けられた衝撃に痛む身体
それらを一切気にすることなくティアはのそりと立ち上がる
そこには誰もいない
テーブルの対面。その椅子には誰も座ってはいない
誰も、最初からここには、ティアしか、いない……
ぶるぶると、身体が震え出す。引きつった顔に手を当て抑え込もうとするが一向にそれは収まらない
ふと、ティアは自分の頬を一筋の涙がつたっているのに気がついた
それがティア・グランツの号泣だった

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