2ntブログ


1、「純子さん」

巽さん、あなたは不思議な人ですね。
騒がしくて、いいかげんで、ふざけてばかりで行き当たりばったり…
でも、本当は違うんですよね。
巽さんがどれだけ私たちフランシュシュを、私を気にかけてくれているか。
私にはわかります…。つい先日も
「なんじゃい急に、礼がしたいならワシと結婚して一生俺の面倒見んかい!」
なんて、あまりに唐突なプロポーズをしてきましたね。
ロマンチックさの欠片もなく夢の中の巽さんは本当に強引でした。
文句の一つも言うべきだったかもしれませんが、
私もつい「はい」と返事をしてしまったからには仕方ありませんよね?


2、「愛妻」

ゾンビィも眠る丑三つ時、今夜も私はこっそりと巽さんの部屋へ訪れる。
アイドルになるため磨いた技術で針金で鍵をアレしてコレしてするりと中へ潜り込みやーらしか巽さんのお部屋をご開帳。
ではこれより愛妻ゾンビィによる滅菌作戦もとい掃除を開始します。
昨今では共働き夫婦が当たり前であり男にも家事を求める恥知らずな平成アイドルが増えているそうですが何を隠そう私は昭和の女。
ぐっと袖まくりをして掃除にかかる。まずはどこから取り掛かりましょうか。
机の引き出し?壁掛け時計の裏?押入れの中?
いいえやはりビニ本の隠し場所なら定番のベッドの下でしょうか。
ルンルン気分でしゃがみ込みベッド下をのぞき込んだ私は、
そこに潜んでいた水野愛と目が合った。


3、「看病」

幸太郎さんが風邪をひいちゃった!?
あわわわわ…どやんすどやんすって、さくら慌てて看病することに決めたんだけど
果物やアイス手土産に幸太郎さんのお部屋にお邪魔してみたら
出迎えてきた幸太郎さんは大きなマスクにどてらに冷えピタ装備の絶不調!
そんな姿で何時もの調子でじゃいじゃい言ってもガラガラ声じゃダメダメじゃん!?
という訳で今日のさくらはコスチュームチェンジでゾンビナースだ白衣のゾンビ!
ゾンビとナースって意外とベストマッチ?どげん?どげん思うと幸太郎さん?ねぇ!ねぇねぇ!!
普段は見せない幸太郎さんの弱った姿にさくらドッキドキ!なんつって!
でもでもぉ、たまにはこんな日があっていいのかも
なーんて不謹慎なこと思っちゃうゾンビライフで命日がエブリディなんだけど
兎にも角にも幸太郎さんの為にも真面目に看病がんばるぞいって
さくら前に見た映画を思い出して参考にしてみるのでした!えへへ、ちなみにタイトルは「ミザリー」
冗談はよせって?
いや?逃がさんとよ


4、「掃除」

はい皆様こんにちはお久しぶり初めまして
伝説の昭和アイドル改めフランシュシュ4号改め巽幸太郎の愛妻ゾンビィ紺野純子です
生前培った歌と踊りでお茶の間のファンたちに夢と希望と巽さんへの愛を届けるべく日々奮闘している私ですが
一度死んで蘇った為に時代の変化についていけず戸惑い失敗することも少なくありません
巽さんのお風呂に頭を置き忘れたり巽さんの部屋に目玉と耳を置き忘れたり巽さんの布団の中に胴体を置き忘れたり…
この前も巽さんの服を洗濯してあげようとしたままウッカリ私の私物入れに容れてしまいました
今日は今までの失態を挽回すべく再び巽さんの部屋にお邪魔しまーす…あっまた鍵変えてる。昭和パワーで即開錠
さて、今日はどこから手をつけましょうか?
ウキウキしながら辺りを見渡し薄暗い部屋のカーテンを勢いよく開け放った私はまず
窓ガラスに張り付いていた水野愛を突き飛ばした


5、「おつまみ」

日も暮れたというのに蒸し暑い夜。私たちゾンビィ一同はだらだらと酒を飲み交わしていた。
消灯時間は過ぎてるとか未成年が飲酒はという意見はサキの「ゾンビやけん問題なし!」という鶴の一声で黙殺され、
今や私たちは自分たちのプロデューサー、巽幸太郎への愚痴を垂れ流すただの酔っ払いと化していた。
がしがしとヤリイカのスルメを齧りながら赤らんだ顔で思いつく限りの罵倒を垂れ流す。悪口を肴に酒を飲む。
アイドルがすることじゃないわね、とどこか頭の片隅で自嘲しつつも止まらない。
そうして持ち寄った酒瓶を一通り空けていると、いつの間にか皿の上からつまみがな無くなってしまっていた。
なくなったものは仕方ない、と溜息を吐いているとゆうぎりが新しいつまみを用意すると言い出した。
よろよろと、かなり酒が回っているのかやや千鳥足のゆうぎりが押入れを開ける。
ドサリと簀巻きにされた幸太郎が落ちてきた。
彼は猿轡を噛まされた口をモゴモゴと動かしながらサングラス越しに私に瞳を向けてくる。
成る程。成る程…
私たちは静かに服を脱ぎだした。


6、「人」

私たちゾンビィは赤ちゃんを作れるんでしょうか?
無理ですよね死んでるんですから。でも想像くらい許されますよね?
例えば私と巽さんの間に子供が出来たとしたらどうでしょう
きっと可愛く凛々しい子に育つはず…あぁ子を産めないこの身体が恨めしい…
という訳で別の方法を考えましょう。まずは定番、卵から
卵を産むには卵子を相手へダイレクト着床させるケースと有精卵を宿主に産み付ける手法が考えられますが
後者の場合ほぼ確実に母体は卵を孵す孵化器以上の意味を持ちません
巽さんに背負わせるにはとても悲しく尊い役割です…
よって消去法として冷蔵庫に作り置きしておいたiPS細胞と私のキノコをジョグレス進化させ巽さんの遺伝子情報を取り込んだところ大成功
周囲の生物目掛け手当たり次第に菌糸を伸ばすゾンビィ細胞が出来上がりました
ふふっいいですか水野さん。人という字は巽さんのお尻の割れ目に似ているんですよ
大発見です


7、「感謝」

んもー!幸太郎さんはいっっっつもそうやって私に酷いことばっか言いよる!
愛ちゃんや純子ちゃんや他の皆みたいに褒めてくれてもよかと!?
むー…まあ確かに私だけ伝説ついとらんけど、付いとらんけど私頑張っとるっちゃもん!
こうやって、頑張っとるとこちゃーんと見とるって言葉にして言ってくれんの?
幸太郎さんやってそうやろ?いっつも頑張っとるもんね!誰かが褒めてあげんとね!
ごほん……幸太郎さん。幸太郎さんは偉かね…佐賀のために、私らのためにお仕事取ってきてくれてありがとう
ゾンビィの私らが人前に出られるようにメイクやってくれて本当にありがとう
営業も作曲も衣装の準備もぜんぶ、ぜーんぶ一人でやって偉かぁ。いつもありがとう幸太郎さん
私らみんな幸太郎さんのこと感謝しとる。私はちゃーんと見とるんよ?
ねっ?自分のこと見て欲しいならまず相手のこと見んとあかんよね?
自分を見つめ直すってそういうことやもん
私は見とるよ。幸太郎さんがゆうぎりさんをチラ見した回数6回あくびした回数12回にやついた回数8回純子ちゃんの横顔を見つめた回数3回私の気持ちを無視した回数19回
ちゃんと、見てるんだから


8、「俺の正体も見破れなかったくせによく言うよ」

ソウゴ君はがばい偉かね……。ソウゴ君、ずっと王様になるって言っとったっちゃもん
私もアイドルになったけど、それは幸太郎さんが言わんかったら絶対ならんかったと思うし
今やって、愛ちゃんや純子ちゃんみたいに仲間がおらんやったらここまでやってこれんかった
でも、ソウゴ君は違う。なれるかわからん、どう目指せばええかわからん夢をまっすぐ追いかけとる
それ見て、私はずっとすごかぁって思ったんよ
ソウゴ君の姿を見て、私も勇気がわいてくる!がばいかっこいいって、ワクワクしてくる!
皆に夢や希望を見せるのがアイドルだって言うんやっちゃったらソウゴ君もきっとアイドルなんよ!
私もね、ソウゴ君を見て思い出したんよ
だから私も、ソウゴ君みたいに…私が生きとった頃みたいに…(カチカチカチ…)
私の夢を……王様を、目指してみようと思うの(ジオォォォウ…)
変身…!
(ライダーターイム…カメェェェンライダァァァ…オォォォマジオォォォウ…)


9、「SEGA」

「さく幸なんてだっせーよな」「純幸の方が面白いよな!」
フランシュシュの活動も軌道に乗ってきたと思ってたら
そんな街の声を偶然聞いちゃってさくら大ショック!
嘘だよね!?そげんことなかとよね?
って皆に聞いても顔を下にそらされてさくらもう涙うるうるのウル!
あぁもうどやんすどやんすーなんて言ってる場合じゃない!
このまま終わってられんとってリアカー引いてドサ周りの『草の根営業計画』開始!
「さく幸いかがですかー!」「ヴァー」
たえちゃんもリアカー押すの手伝ってくれるし段々とファンも増えてきてるしさく幸が王道だって言われるまで後もう少し!!
今日も皆のがばい元気な声が飛び込んで来る
「サキ幸1つ下さい」
「へい、一丁!!」私は笑顔で拳銃の引き金を引いた


10、「鬼ごっこ」

前回のゾンビランドサガは!サクラサクとは言うけれどさくらのそれは彼岸花咲き乱れるお彼岸フェスティバル
そんな青春どころか人生終わったゾンビな私にも春が来ちゃった!?
ハラハラドキドキで自覚したラブのお相手は絶賛活躍中限定1名貴重な竿役幸太郎さん
はわわわ~、そんな混乱するさくらを助けてくれたのは頼れる先輩愛ちゃん純子ちゃん!
アイドルの恋愛なんて局中法度のヤバヤバだけど「私たちに任せて」「一肌脱ぎます」と頼れる姿にさくら大感激だよぅ~!
これから始まるぎゅぎゅっと楽しさいっぱいの未来に思いを乗せてイェイイェイいぇーい!
なーんて思ってたのにアレ?アレ?どやんすー!?
私から逃げるように遠ざかっちゃう愛ちゃん純子ちゃん。小さくなってく背中にさくらがっかり
自分を頼って欲しいって、いつでも一肌脱ぐと言ってくれたっちゃのに嘘だったのぉ~!?
……幸太郎さんの前では簡単に脱ごうとしてたのにね
はっ!!なんて考えてる場合じゃない!?二人とも~メイクも無しに外に出ちゃ駄目だってばー!!!
私はピーラーを握ったままクラウチングスタートの体勢を取り、加速した


11、「あと一歩を踏み出す勇気」

巽さん、いつもありがとうございます。
その一言が言いたくて、純子さんは仕事を終えた巽さんの後ろをぴょこぴょこついていきます
いつ声をかけましょう?大きな背中を眺めて純子さんは一定の距離を保ちながらついていきます
あの廊下の角のところで…でも、変に思われないよう自然な感じにしなくっちゃ
かける言葉を考えながらついていきます。あ、巽さんが水野さんと話してます
どうしましょう…今話しかけたら迷惑ですよね。うーんと悩んでいる間に巽さんはいつの間にか進んでいきます
事前に練習していた状況と違うことに純子さんは戸惑って声をかけられません
もう巽さんは部屋の前で鍵を取り出しました。これを逃せば今日は話しかけるなんてきっと無理
頭では理解してるのに、口はもごもごと動くばかり
だって、ここまでついて来た気持ち悪い女だと思われたらどうしよう……
今日も純子さんは勇気が出せないまま巽さんの部屋の鍵を針金で開錠して中へとついていきます
…せめて、お休みなさいが言えるようになれたらいいな
巽さんのベッドの下で純子さんはキノコを生やしながらしょんぼり項垂れるのでした


12、「隠れ家的バー」

一日の終わりに、くつろぎのひと時を
わっちの経営する和風バー『壬生浪士』はそんな思いから始めた店どす
世間の喧騒から隔絶され、まったりと時を過ごす為の空間
メニューは新鮮な果実を使った“かくてる”が人気でつい立ち寄りたくなると好評をいただきなんした
お客人も実に様々、一期一会の出会いを楽しめるのも醍醐味でありんす
今夜ふらりとやってきなんしたのは、なんとわっちの同志さくらはん
なんやフランシュシュ解散後も忙しく活動しとるみたいやなぁ
かくてるを差し出しまったりと静寂に浸っているとさくらはんは酔いが回ったのか
頬を赤らめ笑みを浮かべ、わっちへ紙幣を差し出すと「あの人へ」と一言
カウンターの端で静かに飲んでいた主様へと目線を向きんした
これに悪戯心が沸いたわっちもにこりと笑みを返して承知。棚から手頃なボトルを掴み出し幸太郎はんの脳天へ振りかぶる――
さて皆様方、夜のひと時をバーで過ごしてみささんすか?
もしかしたら運命的な出会いが待っているやもありんせん
酔い潰れぐったりとした幸太郎はんを引きづり込み夜の街へ消えるさくらはんを見送り
わっちはまた明日の営業へと備えるのでありんした


13、「かくれんぼ」

巽さんの部屋、巽さんの寝室、巽さんのベッド……の下
いま私の上に巽さんが寝ている…
深夜遅くいつものように巽さんの部屋に忍び込んでしまった私は
時折寝返りにギシリと鳴る音やすませた耳に届く寝息にあの人を想いながらいけない『かくれんぼ』に息を潜めていました
いつか…いつかはベッドの下じゃなくふたり同じ布団で…
ぽーっと紅潮してしまった頬を押さえ、そっと首を横に向け
それを見た
視線の先、ベッドの上から垂れ下がった髪の毛が見えた
それはゆっくりと…ゆっくりと…下へと降りて来ていて
普通、下を覗き込もうと思ったら一度降りてからしゃがみ込んで見るものでは?
それはまるで、首だけを下に傾けてベッドの下を覗こうとしているようで
そしてその長い髪は、巽さんのものではあり得なくて
「純子ちゃん。みーつけた」
ドサリと落ちてきたさくらさんの生首が、私を見て
笑った


14、「花魁講座」

ゆうぎりどす。わっちが死んで100年余り、
この国もずいぶん様変わりしたようで驚かされることばかりでありんす
同じ言葉で話しても伝わらない事もあり、本当に難儀やわぁ…
よって今宵は幸太郎はんをお招きしての日本語講座と参りなんした
さあ幸太郎はん……おや、返事が無いでありんす?聞いてるでありんす?
なぜわっちが噛ませた猿轡なんて付けているんでありんすか?
これでは返事どころか助けを呼ぶことすらできささんす
そんな「轡(くつわ)」は馬具の一つ、口に噛ませて手綱を付ける金具でありんすが
実は「猿」が意味しているのは動物の猿の事ではなさんす
これはその昔、扉が開かない為の戸締りの仕掛けを「さる」と呼んだことが由来となっているのでありんす
固く閉じられたこの部屋のように…
さて、今宵のわっちの講義はここまで
帰り支度を済ませたわっちは、次の講師であるさくらはんから札束を受け取ると素早く部屋を後にするのでありんした


15、「魔王」

前回のゾンビランドサガは!
善神キサウド様の神託を受けて魔王討伐に旅立った私たちだけど
道中敵の罠にかかって私たち全員死んじゃった!?
おぉさくらよ死んでしまうとは情けなーい!(ダミ声)ってもう死んじゃってるけどね(テヘペロ)
しかも幸太郎さんが魔王に浚われちゃった!
次から次へと襲って来る困難にもうさくらじぇんじぇんわかんにゃいよー
そうこうしてる間に背信、裏切、不義、内通と愛ちゃん純子ちゃんも脱落して残ってるのは私だけ!?
はわわわ~
脱落していった皆の無念を胸に秘め、さくら参上!玉座の間へ通じる扉を開け放つ
そこにあったのは空っぽの玉座と……いたいた発見!囚われていた幸太郎さんだー!うえ~ん!さくらしゃびしかったよぉ~
心配して駆け寄ると安心した様子でこっち向く幸太郎さん
あれれ?でもなんで急に顔を青ざめさせてんの?
まさか魔王が現れた!?どやんすどやんす……!?
でもでも、あたりを見渡しても変わった様子はないってどういうこと!?何がおこってるのー!?
私は不審に思いながら目の前の座り慣れた玉座に腰かけた


16、「松ぼっくり」

クリスマスライヴに向けて準備しているとちんちくが洋館の飾りつけをしようと言い出しました。
アタシの上着のポケットから松ぼっくりが出てきたことがキッカケです。
山籠りの時に燃やすのに集めたのが残ってました。
こういう木の実や色んな小物でグラサンにリースかインテリアでも作ってやろうと言うのです。
面倒だしアタシはそういうの苦手だと断ったのですがさくらさんがグラサンが喜ぶと言うので仕方なく作ることにしました。
作れませんでした。
不器用な自分にキレそうになったけど姐さんが手伝ってくれました。
ゆうぎり姐さんはたいていのことは出来る、がばいすごか人です。
「そういえばサキはん、松『ぼっくり』の意味を知っているでありんすか?」
知りません。『ぼっ栗』か?適当に思い浮かんだ言葉で聞いてみました。
「陰嚢でありんす。ふぐり。睾丸。玉袋。「松ぼっくり」とは漢字で「松陰嚢」と書くでありんす。
 つまり、くりすますに飾られるリースには大量の陰嚢がぶら下がっているわけで
以上です。


17、「ねこゾンビさんとお月さま」

お空にあるお月さまがいつもより大きく、きれいに見える日のことでした。
ねこゾンビの純子さんは飼い主さんのドタドタ、バタバタという足音で目ざめました。
「大変じゃい!大変じゃい!」
はてにゃ?と純子さんは首をかしげます。
飼い主さんがいつもおしごとでたいへんなことは純子さんも知っていました。
ねこゾンビの純子さんはねこゾンビアイドルで、6人のふつうのゾンビアイドルたちとうたったり、おどったりしてひとやねこを元気にするおしごとをしています。
そして純子さんの飼い主さんはアイドルのプロデューサーをしているのです。
プロデューサーというのは純子さんたちアイドルがうたっているうたやおどりをかんがえたり、たくさんのひとにきいてもらう方ほうをかんがえるたいへんなおしごとなのです。
でもその日はなんだかいつもとようすがちがいました。

「大変じゃい!大変なんじゃい!」
純子さんが飼い主さんにおはようのあいさつをしても飼い主さんは気づきません。
おへやの中をいったりきたり、とつぜんれいぞうこからごはんをぜんぶ出そうとして、やっぱりやめたり。
こんどはべつのお部屋のタンスをあけしめして、ヘルメットやかいちゅうでんとうを出してちがうちがうと頭をかかえてしまいました。
テレビもつけっぱなしで、そこにはむずかしい顔をしたひとがむずかしいことをしゃべっています。
ねこゾンビ語ではないため純子さんには読めませんでしたが、そこには『月が地球に落下。衝突まであと1日』と映っていました。
「にゃ?」
しんぱいになった純子さんがもういちど飼い主さんに声をかけて、そこでようやく飼い主さんも純子さんに気づきました。
「おぉ、純子……。純子ぉ……」
「にゃっ!?」
ぎゅぅぅっと、純子さんはだきしめられました。いつもよりつよい力です。
純子さんはこまってしまいましたが、飼い主さんがめそめそ泣きそうなことに気づいてだきしめ返しました。
そうしてねこゾンビの手でやさしく飼い主さんをなでてあげました。

どのくらいそうしていたでしょうか。
「……とつぜんすまんかったのう純子。おかげで元気がでたんじゃい!お礼に今日からなんでも純子の好きなことをしてやるんじゃい!」
「にゃう?」
きゅうに元気になった飼い主さんは大きな声でいいました。やっぱりいつもとちがいます。
でも、なんでも好きなことをしてくれると飼い主さんはいいました。
大好きなおやつを食べるのも、飼い主さんとお外にあそびにいくのも、とくべつに飼い主さんのベッドでいっしょにねるのも、なんでもです。
純子さんはかんがえました。にゃんにゃんうなってかんがえました。
そして、飼い主さんに言いました。

「今日は練習をする。いつも通りの練習だ。次のライヴに向けて、いつも通りのレッスンを」
ねこゾンビアイドルの純子さんとふつうのゾンビアイドルのみんなの前で飼い主さんはいいました。
それが純子さんのおねがいだったからです。
なにかほかのことをおねだりすることも考えましたが、つぎのコンサートが成功するように、今日もいつもと同じように、純子さんはみんなとレッスンがしたかったからです。
ゾンビアイドルのみんなもさいしょはなにやら話し合っていましたが、飼い主さんと純子さんの話をきいてやる気をだしてくれました。
そうしてレッスンがはじまり、いつもと同じすばらしい1日がおわり、
……夜になりました。

まっくらなおうちのろうかを、純子さんはねこあしさしあししのびあし。音を立てないように歩いています。
飼い主さんにないしょの夜のおさんぽ、いいえパトロールでした。
ふわふわしっぽをしゃなりと揺らす優雅なパトロールのとちゅう、純子さんは空いていた窓を見つけるとひょいと飛びのり、やねの上へ。
外に出た純子さんが夜のおそらを見あげると、お月さまがいつもより大きく眩しく、きれいに見えました。
それからしばらく、じいっとお月さまをながめていた純子さんはせなかにだれか立っているのに気づきました。
『こんばんにゃ』
ねこゾンビ語で話しかけられました。振り向いた純子さんはびっくりぎょうてん。やねから転げおちそうになりました。
そこにいたのはゾンビの0号さんだったからです。
0号さんはふつうのゾンビアイドルですから、ふだんはゾンビ語でうなっています。
彼女がねこゾンビ語を話せるなんて純子さんははじめて知りました。

「お、おはようございにゃす」
ねこゾンビ語であいさつしてから、このあとはどうしようとかんがえました。
ねこ同士のマナーならここからはなを近づけてくんくんしますが、0号さんはふつうのゾンビです。
そんな風に、にゃんにゃんうなってなやむ純子さんを無視して、0号さんはしゃがみこみ純子さんの白いねこ耳をなでてから言いました。

『今夜は月が綺麗な夜ね』

なでり、なでり。夜空を見あげて0号さんはそう言いました。
純子さんもつられてお空を見上げます。

「にゃ。そうですにゃ……でも」純子さんはのどを鳴らして応えます。
「こんにゃにお月さまが近くて大きいと、まぶしくてたまらにゃいです。これじゃあお月さまじゃなくてたいようさんです」
ピタリと、純子さんの白い毛をなでる手が止まりました。
口元へ手を当て、0号さんはなにごとかかんがえているようすです。
『そうね…たしかに美しくないわ』
スっと、0号さんが立ち上がりました。
そうして両手を夜空にむかって伸ばすと、…ひょいと月を両手でつかみ上げ、手まりのように空へと放り投げました。
ねこの目を大きくみ開いておどろく純子さんの目の前で、お月さまはだんだんと小さくなっていき……いつもと同じ大きさまで小さくなって夜空の中へおさまりました。
あわわわ…尻尾を逆立ててあわてる純子さんがとなりを向くと、
「…ヴァァ゛………」
0号さんはいつもと同じようにゾンビ語でうなっていました。
それっきり、0号さんはねこゾンビ語を話すこともなく、ゾンビ語でうなりながら眠たそうにお部屋へ戻っていきました。

そして…
夜の時間は終わり、太陽が昇り、
また、いつもと同じ朝が来た。
もうすぐライヴも本番だ。
ねこゾンビの純子さんと飼い主さんたちの素晴らしい1日が、また始まる。


18、「恋ばな」

ふう…みんな、寝てしもうたね…
ねえサキちゃん起きとー? …少し話さん?
今日ね、がばいよか事があったと
幸太郎さんがライブが成功したご褒美にって、アクセサリーば買うてくれたんよ…
うん、それだけ…たったそれだけん事なんに、がばい嬉しかったと…
考えてみたら幸太郎さんが私のこと素直に褒めてくれたん初めてやなーって
ゆうぎりさんにはちょっと呆れられちゃったけど…
『それで満足しとらんと、さくらはんはもっと欲を言うべきでありんす』なんて
もっと積極的になるべきだーって、アドバイスされちゃった…えへへ
でもよかと…。些細でも…私には大切な思い出だけん…
…話は変わるけど、サキちゃんよう最近二人きりで幸太郎さんば遊びに連れ出しとーんね?
この前もこそーっと一人で幸太郎さんの部屋ば行っとったもんね?
ねえサキちゃん、起きとー? サキちゃん?
おい、起きろ


19、「許キャラ」

おーい!非佐賀県民のみんなーあっつまれー!
みんな大好きゾンビランドサーガがはじまるよー!
今日のテーマはズバリ魔王!
魔王っていうと何をイメージするかな~さくらじぇんじぇんわかんないよー
はい!ではリリィちゃん!そうだねーファンタジーだねー
ばってん実は魔王って言葉は仏教用語なんだよ!
だから大魔王ルシファーなんてのは仏教とキリスト教が合体事故を起こしちゃってるの
はわわわ~
有名どころで言うとドラクエなんかは強大な悪霊とか敵対者の王みたいな感じで英訳されちゃってるし
ゲーテの『魔王』は英語だとElf King(妖精の王)なんだよね!
うんうん、魔王さくらって書くと怖いけど妖精の王さくらだとキュートでファンシー?
なんつってー!さくらなんつってー!
という訳で私のことを魔王って言った「」くんは正直に名乗り出てね!さくら許すよ!!
勿論許さなかった


20、「持っとらん」

そんなこと言われたって嫌なものは嫌なんです!
私は「持っとらん」から…!
努力して、期待して、期待されて、失敗して裏切って…もう打ちのめされたくない
また駄目だったんだって突き付けられたくないんです!
なにも学校行事だけじゃない、受験だけじゃない! 恋愛だってそう!
中学の時、ちょっといいなって片思いした先輩はホモだったし
友達の恋を応援しようと思ったら、なんでか私が友達の意中の相手から告白されて修羅場発生の大惨事…
今だってそうですよね? サキ幸や純幸が盛り上がっていればいるほど
後からやって来た私がそんなつもりもないのに幸太郎さんをかっさらって滅茶苦茶にしてしまう
うんざりんなんですよ!「何が嫌なの」かって? 私はすべてに疲れたんです!!
これでわかったでしょう……もう、いいですよね?
これ以上は話しても意味ないです…それじゃあ、
はい、お話し終わり
タオルと着替えはここに置いときますね
私は気持ちよかったから幸太郎さんも気持ちよかったですよね?


21、「もっと持っとらん」

私は逃げた。バリケードを越えようと額をぶつけ、ストーブを足の小指で蹴飛ばし、
ドアに指を挟むどんくさいヘマをやらかしながら洋館から逃げ出した
痛覚のない身体に、自分が死体であることを突き付けられながら歩き続けた
だってそうじゃないか。頑張るだけ無駄で、やればやるほど悪い方に。挙句の果てがゾンビだ
何に希望を持てと、どやんしろって言うのか、これ以上絶望しろとでも?
「だから!俺は!お前を絶対に見捨ててやらん!!」
そんな私の苦悩を、長身のサングラス男は真正面から切り捨ててきた
清々しいほどに一方的で自己中心的なその宣言に思わず気圧される
理屈も糞もない、諦観に沈んでいた心にずかずかと踏み込んでくる感情の輝きに
私の中で消えかけていた何かが燃え上がるのを感じた
『アイドルとして輝くお前を待つ人がいるということを』
思わず目の前の男から顔を反らし、もう一度この場所から見える夜景に目を向けた
宝石を散りばめたように輝く光。あの無数の光の数だけ人がいる
不思議だ。景色事態はさっきと何も変わっとらんはずなのに…
その光景はとても美しく、赤々と燃え盛る洋館もまるで幻想的に思えるのだった


22、「サキちゃん息子日記」

俺の母親は人間じゃないのかもしれない
それは自分が生まれてきてから今までの16年間
ずっと感じてきた違和感であり疑念であった
思えば母は周りの同級生たちの親とどこか様子が違った気がする
体温は低くいつも触れるとひんやりとしていた
父親と一緒に風呂に入ったことはあったが、母に風呂に入れてもらった記憶がなかった
海水浴ではいつも泳がず浜辺にいたし、すっぴんを見られなくないと一度も化粧を落とした姿を見たことがない
見たいテレビがある時は生首だけソファに置いて残った身体で家事をしていたり
真夏に熱いからといって身体の一部分だけを取り外して冷蔵庫に入れたりしていた
そして何より…昔の写真と今でまったく見た目が変わっていない。歳をとっていないのだ…
俺は気づいてしまった。俺の母親は人間じゃない
恐らく…ロボットかアンドロイドなのだと


23、「思い出」

「なーさくら、お前記憶戻ったんやったら生前の面白エピソードのひとつでも聞かせろや!」
「ちょっと、無茶言うんじゃないわよ!……でも、気になるわね。さくらは私のファンだったのよね?」
「さすがに私のことは……世代が違いますよね……」
「恋人とかはいなかったのでありんすか?」
「「「それだ!!!」」」
「え、えぇえー!?あ、えっとその、恋人はおらんかったかな……アハハ。あっ、でも気になる格好いい男子はおったよ!」
「ほぉー誰や誰や!言ってみろって減るもんじゃねえし!」
「うん……その、ほとんど話したこともない、物静かで大人っぽい男の子で、乾くんって言ってね、」


「幸太郎さん、私ね一つ思い出したことがあったんよ」
「学生時代の思い出…今から10年前。でも、私からすればほんの数か月前…」
「同級生にね、ちょっと気になる男の子がいたと」
「ほとんど話したこともなか、大人して静かな人やったけど。今にして思えば…初恋、だったのかな」
「アイドルに恋愛なんて厳禁だけど、もう10年も経ってるけど…もしできるならその人の前でライヴをやりたいなー…なんて」
「も、勿論告白なんてせんとよ!?ただ、今のアイドルとしての私を見てほしいだけと!」
「生者と交流していいのはアイドルとしてだけ。でもアイドルとして交流するならよかったい?」
「うん、……その人は『乾くん』って言うんだけど」
「幸太郎さん?聞いとる?……幸太郎さん?」
「もー!私の話真面目に聞いとるん!?」


24、「抱き枕」

「なんじゃいこれは……」
枕営業という名のフランシュシュ抱き枕グッズ販売会を終え、
寝室に戻った幸太郎は目の前のそれに目を落とす
「誰じゃい、置いたんわ……」
ベッドに置かれたそれは間違いなく抱き枕。自分が作り今日販売した抱き枕
フランシュシュ1号こと源さくらの写真がプリントされたものだ
何を思って自分のベッドにこれを置いたのか。最近あいつの思考がまったく読めない。ちょっと怖い
自分で作っておいてなんだが、割と狂気のグッズの部類であるとしみじみ思う
でも売れてるんだから仕方ない。活動資金確保のためだと言い聞かせ現実逃避を終了する
「ま、まあものは試しだ……うん……」
一瞬放り捨ててしまおうかという考えが頭を過ったが、ばれたら怖いし呪われそうだ
既に神を冒涜する所業の数々を犯して来た男は、モノは試しとベッドに寝転がる
その瞬間、枕が内から引き裂かれ伸び出た二本の腕が幸太郎を拘束する
いったい何が…混乱する幸太郎の意識は「乾くん?」という聞き覚えのある声を最後に
闇へと落ちた


25、「姫始め」

前回のゾンビランドサガが終わったので
今回のゾンビランドサガは年明け年越し姫始めといきたいと思いまーす!
ひゅーひゅー!
今回は飛び入り参加もありありのありだから覚悟せんね幸太郎さん!
……聞いとる?私の話ちゃんと聞いとる?
んもーいっつもそうやって私の話を真面目に聞いてくれんやね!
まっ、いっか!
じゃあ着替えとタオルはここに置いとくから
目が覚めたら試合続行だからね乾くん!

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